~森の中で・平成エピローグ~
「ツツジ

 新しく明けた年は西暦2018年、元号の平成30年として最後の年度を迎える。

下北半島の脇野沢村に移住したのが1987年、昭和62年だったが、翌々年に昭和天皇が崩御され、1989年、昭和64年が平成元年となった。脇野沢村は2005年、平成17年の平成大合併でむつ市に吸収され「むつ市脇野沢」となった。

移住した30年間にいくつか歴史が変わり、再来年にまた変わろうとしている。森の中で過ごした30年間は、思い起こすとあっという間だったが、北限のサルやカモシカたちの世界ではさまざまなところで世代交代がおきた。

もちろん我々人間社会でも別れや巡り会いはあるものの、寿命20年程度のかれらにとって30年間は長い時間になるのだろう。

 
「タマサブロー」

 北限のサル「ツツジ」と出会ったのは1987年。牛ノ首ではじめて対面した時は度肝を抜かれるほどの迫力があった。とにかく目立っていた。母系社会を裏付けるサル学のはじまりだった。

特別天然記念物のニホンカモシカとも至近距離で出会った。氷河期の生残り、孤高の動物という雰囲気はまったくなく、庶民的な感覚でどこででも行き会った。相手もこちらを観ているが、サルと同様、すぐにこちらを無視。

あの頃はそんなサルもカモシカどちらも不可解だった。簡単に写真は撮れると思っていた。現実が理解できるまで数年かかった。もちろん写真は撮れていたが、「写っていた」だけだった。

「イロハモミジ」

ある時、写真を撮ることをあきらめた。カモシカが近くにいてもレンズを向けなかった。サルたちも無視した。すべて風景の一部だと考えはじめた。

不思議なことがおきた。カモシカが傍らに座り込んでいねむりをはじめた。まさかと思いながらカメラを向けてみた。カモシカはそのままだった。信じられない思いだったが、その頃から写真が「撮れる」ようになった。

「森の中で」は、そんな時に心の中に浮かんでいた言葉だった。その時のカモシカの名前は「タマサブロー」。カモシカ学の師匠になった。

「パール」

 「森の中で」の言葉には続きがある。森の中で・・サルがいる、・・カモシカがいる、・・樹木たちが風景として息吹いている。

森の中にはかれらの時間がある、空間がある。そんな気持ちは撮影をはじめた頃は芽吹いていなかった。撮影する相手の時間や空間がみえていなかった。自分の時間だけですべてを賄おうとしていた。

思い込みの強い人間が、ひとりだけ森の中でういていたのだ。邪念を持込んで、ひとりで殺気を発していたのだ。

新しい年以降、昭和、平成、・・と三つの元号に及びそうだが、森の中の時間は不変のままだろう。

現在観察中の三代目「イロハモミジ」、「パール」にはどんな時代がやってくるのだろう。エピローグはプロローグでもある。



いそやまたかゆき

2018.01