「牛ノ首 ~新しい時代~」
牛ノ首、大岩下にたつ「シアン」
 
 牛ノ首岬の観察をはじめて29年が経過した。この時間はサルやカモシカたちの寿命をこえている。当初の牛ノ首岬は山頂や中腹に畑が耕作され、マメやジャガイモが作付けされていた。現在の「牛ノ首農村公園」といった歩道や駐車場及びトイレといった人口施設は皆無だった。

 当時のカモシカはオトナメスの「ムラサキ」。オトナオスの「ゲンジ」の2頭のみで、その後の親子関係も観察が難しかった。途中から「クロ」という新参のメスカモシカが入り込んで、1オス、2メスの関係がしばらく続き、こどもの出産、観察も精度が上がった。当然それぞれがこどもを出産した年が続き、多い時に6頭ものカモシカが牛ノ首で観察できた。

 2000年にムラサキがオスのこどもを出産、「ミドリ」が誕生。母親のムラサキはその年に死亡。2001年にはとなりのクロがメスのこどもを出産し、「グレー」が誕生。この2頭が「つがい関係」をもってこども出産。2004年、母親のクロが死亡して、以来、牛ノ首のカモシカ群はミドリとグレーを軸にして続いてきた。誕生したこどもの数は12頭に及んでいる。

しかしこどもは1年以内の死亡や3年以内の移出で、最終的に居残っているのが、2014年生まれのオス「シアン」。2015年生まれのメス「パール」。しかし父親であるミドリが2015年春から1年以上観察できず、死亡した可能性が高い。つまり2016年現在の牛ノ首に生息しているのは、グレー、シアン、パール、そして今春生まれの「マゼンタ」の4頭となる。



歩道脇で採食する「パール」


 2016年9月26日、シアンと出会った。大岩の下に立ち、じっとこちらを見つめていた。しばらく後を追ったが、昔のミドリを思わせるような「堂々とした立ち居振る舞い」があり、ミドリの後見を済ませているような雰囲気を感じた。つまりオス同士のナワバリ競合は決着し、シアンが牛ノ首のオス。ミドリは死亡か他地域に出て行った可能性が高い。後を追えればいいのだが、そう簡単に行かない。

 2016年9月27日、パールに出会った。歩道の脇に座り込んでいたのだろう、立ち上がってこちらを興味深げに見つめていた。まだ2才のパールはあどけない顔立ちだが、興味だけは人一倍強そうだった。昔の母親であるグレーもそうだった。グレーは春生まれのマゼンタを育児中だが、今後、パールの存在がどこに落ち着くのか、皆目見当がつかない。オスはシアンで決まりそうだが、メスの世界はしばらく混沌とするかも知れない。

しかしいずれにしても牛ノ首の新旧交代ははじまり、現在進行形の時期を迎えた。

 牛ノ首の新しい時代はすでに動きまじめ、ゆっくりだが、確実に進行しているのだろうと思う。



いそやまたかゆき

2016.10