「ロクとの再会」


  11月3日、出張から戻ったら、「きょう、芝生にカモシカがきたよ」と報告があった。「ひょっとして右前脚が曲がっていなかったか?」と聞くと、「そういえば、曲がっていたよ」ときた。「ロクだ」と思った。

 ロクとは6月以来、会ってない。というか、愛宕山から「T−13」に追われて、中学校周辺で右前脚を曲げたままのロクを目撃してから姿をみていない。怪我の様子もよく分からないので生存自体が気になっていたものの、バタバタとしたまま秋になった。「ロクは俺に会いにきたな」と思った。


  11月5日、秋晴れのもと、ロクの調査にでかけた。歩いてYHをでて、愛宕山を調査し、そのまま脇野沢川右岸の歩道をさかのぼり、生活痕跡を探した。
カモシカが歩いた痕跡はあったが、姿はなし。中学校の横道を抜け、瀬野林道にさしかかったとき、川沿いの空地に1頭のカモシカが立っていた。何となくボウッとした雰囲気のカモシカはロクそのものだった。右前脚は曲がったまま。少し緊張気味のロクは餌を食べながらあちこちをキョロキョロ。逃げ場を探している様子。

脚の怪我がハンディキャップになっているのかも知れない。そのうち脇を流れる瀬野川に歩み寄って川面を覗き込む。まさかと思っているうちに、そのまさかで、飛び降りた。

水深は10㎝。バシャッと水音がしてロクは悠然と振り返る。そしてそのまま、右前脚が曲げたまま器用に川を歩きはじめた。わずかな観察時間だったが、一連の行動で、たぶん骨折しただろう右前脚は固まって、そのまま生活してきたのだろうと思った。心配するほどのことではなかったのだろう。野生は逞しく、強い生き物だとも思った。



 岸に上がったロクは、林道を横切って、10年前に伐採された雑木林に飛びこんだ。背丈を超えるまでに成長した雑木は、四つ足のカモシカたちには歩き易いが、二足歩行の人間にはまだ薮状態。落葉していても見通しは悪い。

しばらくこちらを観察していたロクは、ゆったりと「薮」に入っていった。後を追ったが、足音すら聞こえず、あっというまに姿を消した。さすがニホンカモシカ。妙に感心した。

 ロクが姿を消した雑木林を難儀してくぐり抜けながら、06年に伐採された直後に、母親の「ヨノジ」に連れられてチョコチョコ歩いていたアカンボウのロクを思い出していた。あれから9年。ずいぶん大きくなったもんだ。おとなになって、愛宕山から父親の六平を追い出し、一時、愛宕山の主になったロクだが、今度は自分のこどものT−13に追い出され、そして生まれたこの古巣に戻ってきた。

この先、ロクがまだどうなるか分からないが、きょうの調査はいろいろな思いが去来した楽しい一日だった。


いそやまたかゆき

2015.11