「カキランの生涯」
冬芽を食べる20才のカキラン
 
 2015年7月9日、「カキラン」がこの世を去った。国道を渡り損ねて交通事故にあった。寄る年波による注意力散漫、反射力の鈍化、体力の衰え・・、原因はいろいろなことが考えられるが、来年の申年番組を取材している最中の悲報だった。

カキランは主役クラスの存在だったが、1991年生まれのカキランは24才で北限のサルの生涯を全うした。
カキランの母親は「カキ」。当時、「ツツジ」「シャチ」率いるA2-84群の序列最下位のメスのこどもとして生まれた。同じ年に生まれたのが「スズラン」。

こちらはαメスであるツツジの次女「スズシロ」の長女として誕生し、子育てチャランポランの母親に変わってツツジが面倒をみた。絶対的な力をもつ強いツツジの七光りのもとに育てられたスズランは、自動的に序列最上位のメスとなり、カキランとスズランは両極端の序列のまま成長した。


発信器が装着された22才のカキラン

 この年、フジテレビが一年間、100日を超える取材を展開した。92年の申年正月番組である。取材は当然、序列上位のスズランに集中、カキランは脇役もいいところだった。序列の違いはすごいもので、カキランとスズランが一緒に遊ぶことはなかった。

スズランは群れのどの場所でも闊歩していたが、カキランはいつも群れの端っこで生活していた。スズランが近くにやってくるとカキランはいち早く逃げた。君子危うきに近寄らず、である。カキランは生まれながら逃げる癖がついていた。

 群れはその後、ツツジの死亡、スズランの叔母にあたるツツジの4女「モミジ」がαメスを継承、被害防除のための個体数調整による捕獲、そして群れの分裂と、激動の時代を迎えた。結果として、カキランとスズランは分裂したそれぞれの群れのαメスになった。

母系の血縁が分断され、年長のサルが頼られる存在になってしまったのだろうが、カキランは仲間のサルが近づくとさっさと逃げてしまう性格は変わらなかった。一風、変わったαメスだった。


最後の写真になる24才のカキラン

 目撃者によると、事故後、群れのサルたちはカキランをおいてさっさと行ってしまったという。カキランは最後までひとりだった。少し可哀想な気もするが、カキランらしい最期かもしれないとも思う。

被害防除のために首に巻かれていた電波発信器は外されたが、いまも電波は発信し続けている。

 番組は残ったスズランが主役となって進行することになる。素晴らしい脇役がいてはじめて主役が存在するのだと、カキラン亡き後、あらためてわかった。

 2016年の申年、カキランは存在感をただよわせてくれるだろう。


いそやまたかゆき

2015.8