「ヨノジ物語番外編・世代交代」
ハッチを連れて工事現場を歩くヨノジ(09年2月)
 
  2009年の夏から、ぷっつり「ヨノジ」の姿が見えなくなった。06年生まれのオスカモシカの「ロク」、07年のメスカモシカ「ナナ」、08年のメスカモシカの「ハッチ」はそれぞれ観察している。

かれらの母親であるヨノジの姿がないのは、死亡ということが考えられる。また、ヨノジとつがい関係を持っていたオスカモシカの「六平」の姿も、愛宕山周辺から消えた。ニホンカモシカの生活様式は雌雄とも個々のナワバリを持つ。子育ては母親が担当し、こどもは2〜3年で母親のナワバリから去って自立するとされている。

5月に六平は、3才に成長したロクを愛宕山で追いかけた。父親がおとなになった自分のこどもを追う、ナワバリ争いである。カモシカのナワバリは同性間では反発するが、異性間ではつがい関係を持ってナワバリを長く共有する。


我家のガクアジサイに匂い付けするロク(09年9月)

六平の追いかけは結果的に父親がナワバリを去り、こどものロクが愛宕山の生活圏を確保した。同時に、姿を消した母親ヨノジのナワバリも空きができたことになり、結局、メスのナナが引き継ぐかたちになった。

つまり母親と父親のナワバリをそのままオスとメスのこどもが引き継いだのである。さらに2頭はつがいの関係をつくりはじめた。ロクとナナの関係は1歳違いの兄妹の関係だが、草食動物のカモシカではよくある関係である。

繁殖力の低い草食動物は、手近な相手を繁殖相手に選ぶのだが、愛宕山のロクとナナの場合は、母親の死亡にともない、つがい関係の父親もナワバリを離れたことになるが、じつは、別の場所で同じような事例を観察している。

カモシカのナワバリ制は、まず子育てをする母カモシカが存在して、そこに父親になるオスがくっつくような関係になり、メスがいなくなれば、オスも生活場所を変えるのだろうと考えている。

脇野沢川を歩く六平(09年10月)

09年秋以降、こどもたちの動きは活発だった。ロクは愛宕山から100mのところに建っている我家の芝生にもよくやってきた。移動経路は、中学校背後の奥山から愛宕山に向かって長く伸びている尾根を移動し、道路を横断して我家の芝生を横断して、再び道路を歩いて、そのまま愛宕山に入るのである。

昼間でも堂々と闊歩することもあり、周辺に住む人々にとっては、「(カモシカが)居て当たり前」になっている。9月4日、ナナが我家を経由して愛宕山に入った。30日にはロクが同じ行動をとった。また同日、ハッチは中学校奥の伐開地で、ひとりで採食していたが、翌日には、我家の芝生に現れた。

また、六平が10月に、脇野沢川の下流をとぼとぼ歩いて上流に向かい、11月には脇野沢中流域の空地で採食していた。この2ヶ月くらいの忙しい観察は、愛宕山観察の長い歴史のなかでははじめてのことで、ナワバリの世代交代が進行しているひとつの証拠とも思える時期であった。

これまでの観察によって、母親のヨノジの死亡が確実なものとなった。


いそやまたかゆき

2015.7