「牛ノ首物語・2015春」
アカンボウを背中に乗せるスズラン
 
 2015年の春は早かった。牛ノ首のフクジュソは3月に開花し、その後の春雪に何度か埋もれながら春を迎えた。カタクリはゴールデンウィーク前に満開、開花が少し遅いキクザキイチゲやヒトリシズカまで一緒に咲いていた。植物カレンダーが圧縮されたように一気に咲いて、あっという間に春が終わった。

 5月23日、高名なカメラマンM氏が取材に訪れた。昨秋、テレビ番組絡みでやってきて、牛ノ首の「グレー」「シアン」親子のいい写真を撮った。今回も初日にグレーが春生まれのアカンボウを連れている場面に遭遇した。あっという間の出会いだったと彼は喋りながら写真を見せてくれた。

こどもは5月中旬頃に誕生したと思われた。第一発見者の彼に名付け親を頼んだ。これまで牛ノ首のカモシカは「色」の名前で統一しており、難しい注文だったが、彼は悩んだ末に「パール」と決めてくれた。

牛ノ首の雑木林を歩くスズラン

 ところが、その後も彼は牛ノ首通いを続けたが、親子も含めカモシカとの遭遇は果たせないままだった。生まれたばかりのこども、季節的に下草が繁茂した牛ノ首はあちこちが薮になり、人間の目は役に立たなくなった。初日に親子に遭遇したことが仇となった。

 5月28日、「スズラン」の群れが牛ノ首に入って一周した。私も来年の申年番組制作のために一緒に群れを追っており、久しぶりに牛ノ首を隅々まで歩いた。スズランは高齢出産したアカンボウをしっかり抱え、番組の主役を務める気でいるようだった。スズランたちは先端に近い岩場まで移動し、海岸線に姿を見せた。

そのとき、岩場のくぼみを移動するグレーとパールを見つけた。M氏に連絡すると10分後にやってきて、彼は薮をかきわけて後を追った。
岩場に立つグレーとパープル

 YHに帰着後、成果を聞いたら「三度、親子を見つけた」、「でも、写真的には難しかった」と肩を落とした。そしてポツリと「カモシカは難しい」と呟いた。彼の言葉は本音だろう。アフリカの霊長類、ホッキョクグマやグリズリーを撮りこなした彼でも、歯が立たなかったようだ。28年間、牛ノ首に通っている私も5月中に親子と遭遇したことは一度もない。もちろん撮影することは論外だった。

今年の春は偶然に幸運が重なって、観察、撮影が出来た。5日間通い続けたM氏の労力に感服し、そして感謝である。また連れていってくれたスズランにもお礼を言いたい。今春の牛ノ首騒動はすべてが幸運に恵まれた。

 取材が終わった牛ノ首にエゾハルゼが鳴きはじめた。季節は夏に向かっている。


いそやまたかゆき

2015.6