「3回目の申年」

老いた「スズラン」:撮影2015年1月11日


未年が終われば、来年「さる」の年がやってくる。時間の流れは早いものだ。思い起こせば1990年。フジテレビからの依頼で正月番組制作に関わり、一年間のうち135日間、ひとつの群れを追いかけた。
取材だけでも100日をこえ、翌1991年の申年の正月に番組は放送された。「北限に生きるA2-84群」という番組名はとても良かった。それから24年が経過することになる。

 ニホンザルの寿命が25年と言われている。取材の時に生まれたサルが2頭いまも生き残っている。「スズラン」と「カキラン」。ともに1990年生まれのメスザルだ。
 スズランは当時の群れのαメス「ツツジ」の孫で、母ザルは「スズシロ」。ちょっと性格が良くないサルだった。一方、カキランの母親は群れのなかの序列が最下位の「カキ」。いつも群れの端っこでしょぼんとしていたサルで、ちょっと貧相な顔立ちをしていた。

母系社会のニホンザルは、生まれたこどもは母親の序列を引き継ぐので、スズランとカキランは最上位と最下位のサルとなった。番組は群れのサルの顔をすべて覚え、一頭ずつ「個体識別」をして、群れのなかで起きる出来事を自然の姿のまま撮ろうという狙い。
いわゆるサル社会におけるドラマをつくろうとした。その分、時間をかけ、手間をかけ、一年間たっぷり取材にあてた。現実には大変な労力がかかった。

雪のなかの老メス「カキラン」:撮影2014年1月12日
 スズランの母親は、子育て苦手のスズシロで、かなりチャンポランな子育て(サル育て)だった。興味深いことに、そんな母親をみた祖母にあたるツツジがスズランの面倒をみた。
序列最上位のツツジに育てられたスズランは、序列が強いまま育てられ、大きくなると周りのサル達は煙たがって近づく者はいなかった。スズランとトラブルを起こすと「怖いツツジ」がやってきてしっかり威嚇されるので、スズランの序列は高くなったが、孤独だった。

一方、カキランは母ザルと一緒群れの端っこにいることが多く、他のサルたちのいい「いじめ」相手にされた。カキランもスズランとは別の意味で孤独だった。当然、スズランとカキランが一緒になって遊ぶ姿はまずなかったと記憶している。
 いま、取材当時の群れの個体数は24頭だったが、17年後の2007年、個体数が100頭近くになって、群れは分裂した。そしてその時、スズランとカキランは別々の群れに所属し、分裂したそれぞれのα♀的存在として生き残り、24年後の現在に至っている。

 来年、3回目の申年を迎えるスズランとカキランはどうなっているのだろう。北限の地に生きているのだろうか。




いそやまたかゆき

2015.02