「カモシカ散歩」

 
気温が上がった夏の日、むつ市街を車で走っていたら田名部川の土手道で1頭のカモシカと出くわした。カモシカは、橋を横切り、中州に下りて芦原に潜り込み、再び土手道に戻って上流に向かって歩きはじめた。

付近には数名の人々が往来していたのだが、警戒心を感じさせず、散歩するかのごとく歩き続ける。目撃した人々も当たり前のような顔をして、ほとんど無視している。ひとりのおばあちゃんが対面する格好になったが、おばあちゃんは両手を広げて「シッ、シッ」と笑顔、カモシカはちょっとたじろいだがするりとかわして、両者は何事もなかったように土手道をすれ違った。

カモシカはさらに上流に向かって歩き続けて民家裏手の薮に姿を消した。追跡観察は距離にして300m、時間にして15分程の出来事だったが、真っ昼間、人々の行き交う道路を堂々と歩き続けたカモシカを見たのははじめてだった。その姿は国の特別天然記念物に指定されているニホンカモシカとはほど遠い存在だった。

しかし、ニホンカモシカは山間部、雑木林を主とした生活域を拠点として個々のナワバリをつくって生活する草食動物。深山幽谷にすむイメージ。なぜここまでの市街地を行動するのだろうか。いろいろ考察してみた。

  
 近年、市街地の町づくりの一端として河川改修がすすみ、川岸がコンクリートで護岸されることが多くなった。護岸された河川はカモシカの移動経路として格好の地形となる。人目につかず河川伝いに移動することができ、そのまま市街地にはいりこんでしまう。

むつ市のような宅地に余裕のある人家は、周りに庭木や樹木が植えられ、ちょっとした雑木林の変わりになっている。市街地のあちこちに雑木林が点在している。そして、人影もまばらな自然豊かな町がカモシカの生活場所として好条件を満たしているのである。人々が住みやすいむつ市はカモシカにとっても生活しやすい町となっているのであろう。

もう一点、目撃したカモシカは4~5才のオス。若い個体である。オスの中には生活圏であるナワバリをつくらず、あちこちを放浪して生活するタイプがある。子育てはメスだけの役割なので、オスは気楽なものである。市街地での目撃は親子もあるが、大半はオスのカモシカである。悠々自適の独身貴族を満喫しているのかも知れない。

 ただ、いろいろな条件が重なり合うと接触事故も発生する。野生動物は野生動物である。人間とは基本的には違う生活スタイルを持っているわけで、違う種類の生き物が同じ地域で暮らし合えることは出来ないのである。私たちの周りで生活するペットとは根本的に違うのである。注意は必要だと思う。

 カモシカとの遭遇は自然が豊かな街むつ市の悩みでもあるのだが、人々と一緒に散歩するカモシカの姿が「魅力的な風景」にみえてしまったことも正直なところだった。

いそやまたかゆき

2014.08