小学生新聞記事12月号
「冬に向かう冬・群れの分裂」



寒さに抱き合うカキラン(左)とホッケ。


 下北半島の四季は少し違っていて、六つの季節になっていると思います。春、夏、秋、そして冬が、「冬に向かう冬」、「厳冬」、「春に向かう冬」の3つに分かれるのです。冬のはじめにはふわふわとしたやわらない雪が降り、気温もまだ暖かです。厳冬期は北風をともなう粒のような硬い雪で、肌にぶつかると痛いのです。気温も一番下がる大寒の頃ですね。春が近くなると綿のような雪になり、積雪も消えてきます。雪国では、気温や季節風やよって降る雪の種類も変わり、冬がいろいろと入れ替わるのです。

11月下旬、紅葉が残る山々に初雪が降りました。前夜にスギ林で泊った「モミジ」たちの群れは、伐採した材木を運び出すためにつくられた林道を移動していました。初雪の上にたくさんの足跡が残っています。大きな足跡は体格のいいオスザル。重なっている中くらいの足跡はメスザルたちです。

集団で歩いているのでしょう。あちこちに散らばって残っている小さめの足跡は、1〜3くらいのこどもザルたちです。あちこちを見ながらバラバラで歩いているのでしょう。足跡を見るだけで、「どんなサルが、どんな格好で歩いているか」という、サルたちの生活の様子がわかります。これはアニマルトラックという、「足跡を追跡しながら調査する」冬の動物観察手法です。雪上フィールドワークの醍醐味です。足跡を丹念に調べてみると、65匹分まで数えられました。

でも、沢のなかを移動している若いサルや、春に生まれた赤ちゃんザルは母ザルの背中に乗っているので、その分を加えると80匹以上の群れであることが推定できます。下北半島の群れの平均頭数は40〜50匹くらいなので、モミジの群れはずいぶん大きな集団であることがわかります。少しモミジの群れの歴史をお話しましょう。


初雪の朝、林道に残るサルたちの足跡。


モミジが群れのリーダーメスになったのは、母親の死後、新しくリーダーオスになった「ハモ」とコンビを組んだ02年です。モミジは母親ゆずりの気の強さで仲間のサルたちの信頼を得て、リーダーシップをとっていました。しかし、新入りのハモは、体格はりっぱなのですが、性格はおとなしく、リーダーオスが務まるのか心配していました。

ある時、こんなことがありました。沢のなかでハモとはち合わせしました。いつもならハモの方が回り道をするように避けて歩くのですが、この日は違いました。ハモは、目をつり上げて、口を開いて、すごい形相でにらみつけています。私を威嚇しているのです。おかしいなと思ってまわりを見渡すと、ハモのうしろの樹にモミジが隠れているのです。私はすこし下がって様子をみました。ハモはこちらに向かって歩きだし、モミジが続きました。

ちょっと、歩き方が変です。片手をあげたままで、よくみると手首に出血がありました。ケガをしていたのです。モミジは不自由そうに私の目の前を通り抜け、片手を使って樹にのぼって座込みました。モミジはしばらく手首をなめていたのですが、まもなく眠ってしまいました。ハモも安心したのでしょう。その場で居眠りをはじめました。ハモはモミジを守ろうとしたのです。ハモは立派なリーダーオスになっていました。

モミジとハモのコンビが5年ほど続いた頃、群れの様子が変わってきました。一部のサルがグループをつくって、群れから離れて別行動することが目立ってきたのです。ニホンザルの「分派」と呼ばれるグループ行動です。そして、「分派」行動は何度かくり返され、モミジの群れは、今度は群れが分かれる「分裂」の雰囲気がつよくなってきました。

「分派」と「分裂」、ややこしいですね。「分派」は、夏から秋にかけて、比較的餌事情のいい時期に餌場が分散する行動です。群れのサルの数が多くなると、餌場の「良い場所、悪い場所」を巡って競争がおき、仲のよいサルたちがまとまって別の場所に移動して、別の餌場を確保するのです。


初雪が降った朝、陽の当たる斜面で休息するサルたち


しかし、不思議なことに、餌事情が悪くなる冬期には、このような「分派」行動は起きないのです。餌のレベルが全体に悪くなるために、餌場の競争より、北風が入らない暖かな生活場所が優先するためだろうと思います。冬期に、群れが離れるグループ行動が頻繁になると、群れが分かれる「分裂」ということになります。

モミジたちの群れは、この冬期に群れが分かれる行動が3年以上続き、「分裂」が決定的になりました。ニホンザルが、このように離合集散をくり返す意味は、まず安定した餌場を確保すること、そして子育てができる、安全な生活場所である群れを維持するところにあるのだと思います。「分派」や「分裂」は、集団生活するニホンザル社会ではよくみられる行動です。分裂後、モミジたちの群れの方には、二匹の姉たちの家族をはじめとして馴染みの長老メスたちが中心になり、ハモに変わって新しいリーダーオス「ホッケ」が加入しました。

一方の群れは、モミジの姪にあたる20才の年長メスがリーダーになり、新しいオス「コフク」を相棒にして、序列の低かった家系のメスグループが中心となって、独立した群れとして生活が続いています。2010年12月24日はとても寒い日になりました。「クリスマス寒波」が到来したのです。モミジたちの群は大きな沢に広がって休んでいました。真ん中ほどにモミジとその家族が陣取り、近くに姉たちの家族も集まっています。ふとみると、モミジのすぐ隣で、「カキラン」と名付けた老メスがリーダーオスのホッケと抱き合っています。カキランは気持ち良さそうに目を閉じています。

冬季のサルたちは、お互いの体を寄せ合って暖め合うのですが、相手は兄妹やこどもたちといった血縁のある家族のサルたちです。血縁もなく、序列の低いカキランが、モミジの相棒でもあるホッケと一緒にいることはあり得ないのです。その時、近くを通りかかった宣伝カーから「ジングルベル」が流れてきました。まわりの樹々はぜんぶクリスマスツリーになっています。カキランはホッケからとても暖かいクリスマスプレゼントを貰ったのです。

季節は、冬に向かう冬が終わり、いよいよ厳冬に向かいはじめます。「北限のサル」の冬越しはこれからが本番です。


2013.12