朝日小学生新聞11月号
「食欲の秋・恋の秋・それぞれの秋」


 

 下北半島の秋は短い季節です。落葉広葉樹の紅葉がはじまると同時に落葉もはじまり、紅葉の見頃はせいぜい2週間くらいしかありません。落葉広葉樹の森は実りの秋を迎えます。暖かそうな冬毛に衣替えをしたサルたちは、山のあちこちに実りはじめたクリを探して歩きまわります。イガはまだ緑色のまま枝にぶら下がっているのですが、サルたちは枝先までのぼり、枝ごと折って、口にくわえておりてきます。そして、座り込んで、両手を使ってイガを器用に割ります。

イガの刺もなんのその。取りだされたクリはまだ硬い外皮で包まれていますが、歯で削ぎとり、最後に渋皮を丁寧にはぎとって、真っ白な実だけにしてしまいます。それからようやく食べはじめるのです。時間がかかるだけに「コリッ、コリッ」と食べる様子は幸せそうです。ところが、春に生まれた赤ちゃんザルは、まだイガを割ることができません。どうするのかなと思っていたら、おとなのサルたちが食べ残した小さいクリを拾います。

そして、皮をむかずに口に放り込んで「カリッ、カリッ」とかみつぶし、細い指を使って皮だけを取り出しています。ころがっているイガも触ろうとしますが、トゲが刺さって痛いのでしょう。手を引っ込めてしまいます。イガ割りができるは、まだまだの先のようです。秋の森にはいろいろな植物の実りがあります。それも少しずつ時期をずらしながら熟成してくるのです。またブナやミズナラ等のいわゆるドングリ類も実り、落葉と一緒に落下してきます。

秋のサルたちは、クリ喰いをしながら、ガマズミの赤い実を食べ、サルナシを頬いっぱいにほおばり、アケビをみつけたらパクリとやり、歩きながら落ち葉をかきわけてドングリ探しをするのです。秋はとにかく食べまくり、長い冬に備える冬支度の季節でもあります。


そんなこともあって、北限のサルたちの秋の移動距離はとても長くなります。平均すると一日3000mくらいです。春から夏が1000~1500m、冬は800mですから、秋は一年中で一番広い生活範囲を歩いているのです。サルたちの食べ方で興味深いことがあります。熟した実を食べるとき、食べるのは美味しい果肉の部分だけで、実の中に含まれている種子をかみつぶさないのです。種子はそのまま「うんち」にまざって排泄されます。

サルたちはあちこちで食べ、あちこちで排泄するので、食べられた種子があちこちにバラまかれことになります。そして、種子はそこで発芽して、成長して、またサルたちの餌木となるのです。植物にとっても、サルたちに食べられることによって、分布が広がります。つまり、サルたちは食べながら、新しい餌場をつくり出していることにもなるのです。さて、サルたちが忙しいもうひとつの理由として、秋は恋の季節、つまり結婚シーズンなのです。この時期は、おとなのサルたちは顔が真っ赤になります。お尻もとても赤くなります。

結婚できない若いサルたちは薄いピンク色のままなので、結婚できるサルたちは、お互いの顔とお尻の赤色でわかり合えるのです。サル学の専門用語では、秋の交尾時期にサルたちが発情している、と表現します。サルたちが結婚できるのは秋の短い時期だけに限られるのです。ニホンザルはメスザルを中心とした母系社会です。メスザルは生まれた群れで生涯暮らしますが、オスザルはおとな年齢の6~7歳の頃に群れをでて、別の地域に移動します。

そして、単独か2~3頭のオスグループで生活するハナレザルと呼ばれる存在になります。オスザルはすべて、一度はこのハナレザルになります。そして、秋の交尾期に群れの近くにやってくるのがこのハナレザルたちなのです。目的はもちろん、群れのメスザルと仲良くなって結婚したいのです。また、メスザルたちと顔馴染みになって、群れのオスザルになることを目指しているのです。群れのオスザルにとってハナレザルの存在は、喜ばしいことではありません。



結婚相手のライバルになるわけで、群れに近づくだけで「ゴォッ、ゴォッ」と大きな声で威嚇して、遠くまで追っかけていきます。メスザルに近づけたくないのです。しかし、ハナレザルは負けていません。高い木のてっぺんまでのぼって登って、大声で鳴きながら体全体を使って木を揺さぶります。すると、今度は群れのオスザルが対抗して同じことをします。

オスザルたちのこの行動は「木ゆすり」と呼ばれるディスプレイで、メスザルに対して自分の強さを主張しているのです。メスザルたちはオスの力量を見比べるのです。オスザルが、尻尾を立てながら歩いたり、あくびをして犬歯をみせつけるのもすべてこのパフォーマンスです。さて、メスザルたちはどうするのでしょう。ハナレザルは群れの中にはいってこられません。見張りのオスザルがいます。しかし、ハナレザルたちも必死です。いろいろな仕掛けを考えます。ある時、1匹のハナレザルが群れの中を強引に突っ走りました。当然、群れのオスザルたちは血相をかえて、全員で追っかけていきました。

鳴き声が遠くになった頃、2匹のメスザルがそれぞれ違う方向に走りました。1匹の後を追ってみたら、200mくらい離れたところに別のハナレザルが座っていて、メスザルはピタっと寄り添ってしまったのです。ハナレザルたちの共同作戦としか思えませんでした。群れのオスザルは多勢に無勢。数にまさるハナレザルたちにたやすく突破されるのです。なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。ニホンザル社会は、群れの中のサル同士の結婚が長く続くと、「近親交配」がすすんで、生まれてくる赤ちゃんザルに悪い影響がでるのです。

それを避けるためにメスザルは、長年群れに滞在しているオスザルより新しいオスザル、つまりハナレザルを選ぶことが多くなるのです。オスザルたちは5~6年の周期で入れ替わります。秋はオスザルたちにとって大きな変化がおきる時期でもあるのです。華やかな色彩に包まれている秋の森では、それぞれのサルたちが、それぞれの目的にむかって、忙しく過ごしています。

下北半島の、寒く、長い冬はもうすぐそこまでやってきているのです。
2013.11