朝日小学生新聞7月号
「夏のエコ生活」

 
下北半島の夏は、気温もあまり上がらず、30度を越える真夏日も数える程度しかありません。気温があがらないのは、緯度が高いということもありますが、春から秋にかけて、オホーツク寒気団からヤマセと呼ばれる冷たい東風が吹いてくるのです。ヤマセが長く続くと、農作物の成育に悪い影響を与えて冷害のもとになりますが、そんな気候もあって、酷暑という暑さはありません。しかし、本来、温帯性の動物であるニホンザル、北限のサルたちは、雪国の森で暮らすために、身体を寒冷地用に変化させてきました。特徴は密集する長い体毛と大きな体です。南方のニホンザルと比べると20%くらい体重が重くなっています。

ベルグマンの法則に、「同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きくなる」という説があり、体積が大きくなるほど保温性が高くなるのです。そのおかげで、北限のサルたちは、長くて寒い冬を乗り切ることができるのです。言い替えると、涼しいとは言え、夏の暑い季節が苦手なのです。 そこで考えたのが衣替えです。冬毛から夏毛に変わるのです。「あれれー、こんなサル、いたっけかなー」。びっくりするくらい変わります。毛替わりすると、まったく違うサルに見えることがあるので、個体識別して観察をする場合は、冬毛と夏毛の時期を通して記録しないと、途中で誰だか分からなくなってしまいます。

毛替わりはニホンカモシカでも同じです。冬毛は、首のまわりがサンタクロースのひげのような長い毛でおおわれ、いかにも暖かそうです。体全体にも柔らかい綿毛が密集して、体温が保持出来るようになっています。それが夏になると、綿毛をすっかり落として、剛毛(ごうもう)と呼ばれる短い体毛だけになります。カモシカはもともと寒冷地に適合した動物なので、とくに暑い夏はとくに苦手としています。両者の変化はまさにクールビズです。


 さて、サルたちの夏の一日を追ってみましょう。起床は夜が明ける5時頃です。早朝の気温はせいぜい20度前後です。泊り場と呼ばれるスギ林からでて、周辺の草地に広がって、主に草本類の花や葉等の採食をはじめます。餌を探す時も日陰をうまく移動して、水場のある沢に沿いながら歩くのも、やはり涼しいからです。こどもザルは水遊びを楽しんでいますが、おとなのサルたちは、少し歩いては「どっこいしょ」という具合に座り込んでしまいます。観察していると、とてもだらしない、怠け者のような生活に見えます。サルたちは、私たちのように汗を出して体温調整することが出来ないので、無理をして、体温を上昇させない生活に徹底しているのです。

 気温があがる10時頃になると、ほとんどのサルは活動休止です。採食や移動を終えて、スギ林と雑木林が広がる場所までやってきます。そして広く分散して昼寝をはじめます。面白いのは寝相がさまざまなのです。広葉樹の幹に寝そべる者、ヒバの枝に横向きになる者、根元に寄りかかるだけで寝入ってしまう者、岩の上にうつぶせになって寝る者・・。ずいぶん雑な寝方をしますが、共通していることは、どの場所も涼しい風が通り抜ける「風の道」になっていることです。

 岩の上に親子が寄り添っています。ところが、母ザルまだ冬毛のままです。子育てをしている母ザルは、母乳をだすために自分の栄養が不足し、新陳代謝に影響がでて、毛替わりが遅れるのです。夏毛に変わっていないサルは、子育て真っ最中の母ザルだということです。ただ、毛替わりしないサルは他にもみられます。老齢のサルです。とくに20歳を越えてくると、毛替わりせず、冬毛のままで一年中過ごしています。サルたちの毛替わりは、出産・育児と老化に大きく影響されるのです。

夏毛と冬毛」


 メスリーダの「モミジ」がいました。大きなブナが枝分かれにした高めの場所に、家族が集まって昼寝中です。この場所は、母親の「ツツジ」が幼いモミジを抱いて昼寝をしたところです。群れのリーダーだったツツジは、群れが見渡せるこの場所がお気に入りでした。他のサルたちも心得たもので、誰もこの場所を使いませんでした。ツツジ専用の昼寝場所だったのです。ツツジの死後、リーダーの座を後継したモミジは、同じ場所を使い続けています。モミジは、時々目をあけて、まわりで昼寝しているサルたちの様子をながめます。その仕草は、母親のツツジとそっくり同じです。モミジは、昼寝場所だけでなく、リーダーの役割までしっかり学んでいたのです。

 隣のヒバ林では、1頭の若いオスが、枝をうまく利用して体を横たえています。よく落ちないものだと感心します。とくにヒバ林はひんやりしるので、気持ちよさそうです。昼寝場所の特等席かも知れません。「プー」、「スー」。変な音が聞こえました。オナラです。サルたちは昼寝しながらよくオナラをしますが、健康な証拠です。さまざまな昼寝は、お昼をはさんで長時間、つづきます。 午後3時過ぎになって、気温が下がりはじめるとサルたちは、ぽつりぽつりと動きはじめます。歩きながら足元の草をむしって口に放り込みます。ものぐさな食べ方ですが、採食活動開始です。日没が近づく頃になると、スギ林などの「泊り場」近くまでやってきて、家族やグループで樹の枝に上がって、今度は夜の眠りにつきます。この時の寝方は、枝の上に座るような格好で落ち着き、朝まで熟睡します。

 こうやって一日をまとめると、採食活動は涼しい朝夕の時間帯に集中して、気温があがる日中は、ほとんどの時間を昼寝に費やしています。暑い夏は、最低限の体力でお腹を満たし、あとはひたすら寝て暮らす。だらしないとも思える徹底したスロー生活を続けることが、夏を乗り切る最良の方法だと考えたのです。森という、生活環境を変えることが出来ないかれらの、究極のエコ生活なのかも知れません。
 
動かないことも、暑さを乗り切る、ひとつの方法だろうと私は思っています。


2013.7