牛ノ首物語8
「カキランの高齢出産」

牛ノ首岬の歩道で遊ぶアカンボウ
 
2011年5月18日、「モミジ」の群れは牛ノ首岬に向かった。道路を横切り、斜面を登るもの、樹木伝いに渡るもの、また電線を移動に使う者などさまざまな方法で移動する。αオスの「ホッケ」は悠々と道路を歩き、この時とばかりパフォーマンスを忘れない。リーダーたるもの必携の心得であろう。全員が渡り終わったと思っていたら、パタパタと小走りに道路を横切るサルがいた。動きがぎごちない。「あれ!」、背中を丸めるのは「カキラン」。片手でお腹を押さえながらなので、いっそう丸くなっていたが間違いない。「そんなはずはない」。後を追おうとしたが、歩道にはホッケが座り込んで見張り役。カキランをガードしているようだ。すぐには追えない。少し間をおき、ホッケが移動したあとゆっくり階段をのぼる。カキランはこちらを注意深く見ている。傍らを1匹のアカンボウがヨチヨチ歩いていた。「高齢出産だ!」。逸る気持ちがカキランに危険を感じさせたのだろう。あわててアカンボウをひっつかんで薮の中に逃げた。群れは牛ノ首農村公園全体に広がり、春の生活にどっぷり。カキラン親子が一枚撮影できたのでこの日は終了。翌日、群れは牛ノ首岬を離れて、隣にある寄浪地区に移動。集落背後の落葉広葉樹林には、好物のイタヤカエデも多く、涼しくて気持ちのいい生活場所である。


アカンボウを抱くカキラン

サルたちは広い斜面にかなり広がり、おとなは採食と毛づくろい。こどもたちはフィールドアスレチックさながら走り回っている。楽しそうだ。しかしこうなるとカキランの捜索は容易ではない。森の中に80頭ものサルが散らばり、1頭だけを探し出すのは至難の業。モミジのように順位の高いサルは群れの中心部分にいるので探しやすい。カキランは逆に順位が低い。群れの周辺部にいることが多い。斜面を上り下がりしながら群れの端から端まで探しまわる。汗が吹き出してきた。サルたちは全員涼しそうな顔をしている。カキランはやはり群れの端にいた。まわりには誰もおらず、アカンボウを抱えてひとりでぽつんとしている。昨日ガードマンのホッケは100mほど離れたモミジの近くで昼寝をしていた。カキランは警戒心を解かず、子どもを自分で守るという悲壮感をただよわせていた。何か起きればホッケは飛んでくるだろうか? ここまでくると可哀想にさえ思える。カキランは91年生まれ。今春で20歳になる。人間年齢では還暦だが、野生界に高齢出産という言葉はないのかも知れない。出産するということは、育児も出来るということなのだろう。カキランの人生いや猿生経験にかけてみよう。だってカキランは20年間、たくましく生きてきた北限のサルなのだから。