牛ノ首物語8・「動物カメラマン」

牛ノ首岬を背景にする冬のサル
 
2011年は二人のカメラマンが来訪した。ひとりは横浜市在住の風景写真が得意なK君。本年のC社のカレンダーを担当し、スケールの大きい写真を撮る。多摩市在住のM君は動物が専門。北米、アフリカと活動エリアは地球規模。共通は有名カメラマンの弟子をやっていたことで、ともに40歳代の新進気鋭の自然カメラマン。1月の真冬に来訪したK君はテレビ番組の取材。下北半島の厳冬期の寒立馬、北限のサルそして仏ヶ浦がテーマ。取材当日は、積雪60㎝。小雪の舞う絶好の冬日和。前夜黒岩地区の杉林に泊まった群れは牛ノ首岬を目指して移動をはじめた。我々はカンジキを履き、行く先を予想して林道を詰めた。「キュッ、ウィッ」。「サルだ!」、声を聞きつけたK君。さすが自然派、目が輝いている。足跡を見つけると急ぎ足。サルを見つけ、あっという間にカメラを構えた。アシスト役の私は岩の上で彼とサルを観察。若いメスがK君に接近しはじめた。彼は注意事項をしっかり守っている。「自分の気配をいっさい消す」、「写真を撮りたいと逸る気持ちは殺気に変わる」。若メスは彼の頭上で樹皮をかじりながら「私を撮って・・」と言わんばかり。カンジキが岩の隙間に挟まって身動き出来ない体をねじ曲げながら懸命に撮影。レンズを忙しく交換するK君は幸せそう。彼の温厚な人柄がにじみ出ていた。高見の見物もなかなか面白い。撮影が終わってK君がぽつり。「ここのサルは優しいね」、「なくしたくない日本の情景ですね」。


牛ノ首岬の草地を駈ける「ミドリ」

春が落ち着いた5月末。東京の姪の紹介でやってきたM君は寒立馬の出産と北限のサル、カモシカのロケハン。いわゆる下見である。彼はアラスカの巨大ヒグマのグリズリーと戦っても大丈夫そうな体格。パワーで相手を圧倒するタイプ。五月晴れの日、「モミジ」たちの群れが牛ノ首岬にはいった。芽吹きの遅れが森の見通しを良くし、気候も含めて条件は最高。森の中のM君は外見と違って繊細な観察眼の持ち主。私の一挙手一投足を黙々と見続け、視線は強いが殺気を感じさせない不思議な存在。厳冬期のK君とは違ったタイプだが、どちらも百戦錬磨のカメラマン。「撮れるな」と感じさせた。モミジたちは尾根に経由して西に移動。駐車場近くでアマチュアカメラマン達と遭遇。「カモシカだ」の声に背伸びすると「ミドリ」が立っていた。5名のカメラマンが取り囲む格好になってしまった。どうするのかなと心配していたら、「ドッ、ドッ」と全員の間を簡単に駆け抜けた。M君もあっけにとられて感心しきり。「秋にまた再訪します」。すっかり牛ノ首岬のファンになったようだ。厳冬と芽吹きの牛ノ首岬。二人とも「ここは本当に良いところですね」と共感。過去、何度もこの言葉は聞いているが、あらためてそう思った。