牛ノ首物語8
「パープル・初めての冬」

 
 2011年1月、牛ノ首岬の積雪は50センチを超えた。吹きだまではカンジキが膝まで潜る。今冬は豪雪になりそうな気配。昨春、生まれた「パープル」にとっては一番の関所になるだろう。パープルは「グレー」の7頭目のこども。

夏前に姿は確認したものの9月23日にようやく一枚だけ撮影できた。 いつもの尾根上の歩道は風に雪が飛ばされかろうじて道筋が分かる。しかし階段は雪にすっぽり覆われ、段差が消えて単純な斜面になっている。どこがどこだか分からない。しかしこんな時でもキツネは律儀にいつも通りの順回路を歩いている。匂いが駄目な人間にとって素早しいカーナビ代わりになる。

 しばらくするとカモシカの足跡が歩道を横切っている。積雪の様子から昨夜か早朝のものらしい。二頭分。「グレー」と「パープル」の親子だろう。足跡はスギ林から出て海岸側の斜面を採食しながら移動、再び歩道を歩き、山頂に向かっている。食べているのはオオバクロモジの枝、サルトリイバラ、イワガラミの新芽と樹皮。足跡は山頂から海岸側のスギ林に下りる。林内は積雪が少なく、移動が楽。こころなしか足跡も軽やかだ。


 続いて岩場を上っている。と、ふと気配を感じた。「近くにいる・・」。こちらの気配を消す。心を無にする。間違っても「写真を撮りにきた」とは考えない。いや努力をする。カモシカは視力が弱い分、聴力と臭覚が鋭い。それ以上に漂う雰囲気・・、いわゆる気配察知能力が抜群。すでにこちらの接近を感じ取っているはずだ。歩道の西にふんぞり返っている大きな岩を回り込むと、真新しい足跡がふたつあった。歩幅が大きくなり、急ぎ足になっている。グレーとパープルの姿が見えた。こちらをじっと見ている。グレーの目に少し警戒の色がみえる。パープルは興味津々。3枚撮影するとグレーはまた歩き出した。

少し距離を保ちたいのだろう。パープルは無邪気に後を追うが、グレーは危険回避を刷り込もうとしている。育児の大切な時期なのだ。距離を保って根気強く追跡する。そのうちにお互いの安全な距離がみえてくる。ようやく撮影が出来る関係になった。牛ノ首岬をひとまわり歩いた親子は仲良く採食。グレーは木に巻き付いた高い場所のイワガラミの冬芽、パープルは積雪に鼻を突っ込んで地面近くの冬芽。親子らしい微笑ましい光景だ。 

パープルは春に生まれ、夏と秋を過ごし、初めて経験する冬。雪解けを過ぎて春を迎えれば一人前になり、おとなに育って行くだろう。が、春はまだまだ遠い。パープルの冬はこれからが本番だ。