牛ノ首物語8 「カキランのクリスマス」

 
 2010年のクリスマス寒波が到来した。気温は下がり、前日まで地肌が見えていた山々は真っ白に化粧して、暖かだった冬気分が吹き飛んだ。
 天候が変化する時、サルたちは優秀な気象予報士になる。早目に北風の当たらない場所に移動し、寒気が届く頃には暖かな場所で過ごしている。彼らの上観測計は全身を覆っている長い体毛。気圧変化に「毛」は敏感に反応する。長年の積み重ねから気象変化を察知する。やはり長老のサルが群れを誘導する。雪国に暮らす北限のサルの知恵であろう。24日、牛ノ首岬から道路を横断している足跡を見つけた。足跡はバラバラだが、歩幅が広く、急いでいる様子がわかる。足辿りながら斜面を上ると、「ゴー」と渦巻く強風の中に「ホゥッ」、「クゥッ」と微かに鳴声が聞こえる。尾根から見下ろす小さな沢に茶色い固まりがあちこち見えた。天候悪化を予想して早目に風の入り込まない沢に逃げ込んだのだろう。サルに接近する時、してはいけないことがある。高見から近づかない、群れの進行方向を横切らない。この二点は基本。とくにこの日は安全場所に入り込んでいる。追い出すような行動は避ける。ゆっくり尾根を遠回りするように移動。同じ高さになった頃から距離をつめてゆく。何頭かがチラチラこちらを見るがあまり気にしていない。枝先で冬芽を食べるもの、太めの樹皮をかじるもの、雪の下を掘返しているもの、また抱き合って暖をとっているもの。さまざまなスタイルで過ごしている。


近くに「カキラン」がいた。1991年生まれの彼女はもう20才。人間年齢60歳の高齢者並の老メスになる。体の大きなオスザルと抱き合ったまま。顔を見て「おや?」と思った。カキランの相手は「ハモ」を後継した新しいαオス「ホッケ」で、いわゆる昔でいうところのボスザルである。相手がαメスの「モミジ」ならわかるが、順位の低いカキランとの組み合わせは不思議もいいところ。サル社会は母系を中心として序列がはっ
きりする。オスは信頼関係をもったメスと同等な順位をもつ。カキランは下位のグループに属している。しかしこの日のカキランは「あずましそう」に眠り込んでいる。強いオスに守られ、安心し切って熟睡している。モミジは10m離れた場所で子どもの毛づくろいに余念がない。平和な風景だった。冬はさまざまなところが曖昧になる。餌事情の悪さによるもので、環境が厳しい時はお互い様といったところなのだろう。今年のクリスマス寒波はカキランに暖かなプレゼントが届いた。モミジの見て見ぬ振りはサンタクロース代わり。なかなかいいところがある。