牛ノ首物語8 「牛ノ首岬の保育園」

 
 2010年も残り一週間となった頃、群れが牛ノ首岬にやってきた。暖冬の影響もあって気温は高め、まだ根雪すらない。それでもサルたちは長年の習性だろう、北風の当たらない南に面した海岸斜面に散らばった。この場所は急峻な斜面、餌となる雑木林が点在し、寒さが凌げる冬場の絶好の生活場所。寒気が続いたときには一週間も続けて滞在していたことがある。サルたちが餌を探す時は、他のサルたちと場所が重ならないように一定の距離をとる。餌はどこでもあるように思えるが好物がある。マルバアオダモ。北海道から九州まで生育する落葉の高木。材質が軽くて粘り強いので野球のバットに使われる。この
あたりではバットを作れるほどの太さはあまり見かけないが、若木が点在している。かれらはこれを見つけると集中する。こうなると群れの順位がものをいい、まず順位の高いサルが占める。下位のサルたちは仕方なく周りで他の餌を食べながら時間稼ぎをする。しばらく待っていると必ず場所が空くのである。ふと、岩の上が賑やかになった。小さなこどもばかりが集まっている。春生まれの0才のアカンボウが5匹、昨年生まれの1才が2匹、2才が1匹、3才が2匹である。まるで保育園さながら。子どもは胃袋が小さいのですぐお腹が一杯になる。腹が満たされれば遊びに興じる。



集まれば何か面白いことがあるのではと思うのは人間だけではなさそうだ。真ん中に「スズシロ」と名付けた老齢のメスザルが座っている。もう20才、人間年齢では還暦だが、保母さん役をしている。6年前は、今は亡き「スグリ」が保母さんを務めていた。スグリはずいぶん人気があった。子どもたちは暇があると群がっていた。子育てを終えた老齢メスの役割りだが、誰でも出来るものではないと思っている。若い時のスズシロを知っている私は首をひねった。「あいつ」は相当に困ったサルだった。群れで最強だった母親「ツツジ」の七光りを利用して、順位の低いサルをいじめ、騒動を起こしては母親の影に隠れ、群れの平和をいつも壊していた。群れのなかでは浮いていた。子育てもチャランポラン。すぐ子どもを置き去りにして単独行動。母親の自覚がなかった。ツツジが孫の面倒をよく見ていたのは印象的。そのスズシロが保母さん役をやっているのは驚きもいいところ。年老いたのか、若い時の罪滅ぼしか、何か思うところでもあったのか・・。そんな事を考えていたら、子どもたちはそれぞれの母親の元に戻り、岩の上には誰もおらず、保育園は閉園していた。