牛ノ首物8「モミジの新しい相棒」

「ホッケ」の寄り添う「モミジ」(右)
 
 2008年11月13日、牛ノ首岬にやってきた「モミジ」は新しいオスを従えていた。今までの相棒「ハモ」が姿を消してまだ間もないが、交尾期の秋にオスが入れ替わるのは珍しくない。新顔は見たことのあるオス。モミジたちは駐車場を見下ろす岩の上に並んで座り、足下に広がる群れのサルたちを見下ろした。群れのサルたちは二頭を見上げる格好。モミジの宣言、新しい相棒のお披露目である。森の中では見通しが悪く、全員を一望できるこの場所は最高のステージ。さすがモミジである。

 ニホンザル社会はこどもを出産、育児するメスが主役。秋の交尾時期はとくに主導権を握り、かつてボスザルと呼ばれていたαオスを入れ替える。その役割は群れの中枢を握る主流派メスの長。かつてのαメス「ツツジ」を後継したモミジである。群れのサルたちにとってはモミジが認めたオスが、そのまま長になる。ハナレザルと呼ばれる新しいオスが登場するのもこの季節。メスは新しい遺伝子を求めるように新顔に気持ちが動く。群れのオスはメスをガードしようとするが、メスの方が何枚も上手。群れオスに気がある振りをしながら心はハナレザル。


風格が出てきた「ホッケ」

しかし群れの外に出ないと目的は果たせず、群れオスの目を盗みながら出たり入ったりを繰り返す。見つかる大騒動。群れオスから執拗に追いかけ回されて攻撃を受ける。噛みつかれることも珍しくない。不思議なことに相手のオスは攻撃されることなく、メスだけがお仕置きを受けて一件落着。メスは懲りずに何度も繰返し、この延長にオスの入れ替わりが行われる。さらに入れ替わりの期間が、子どもが性成熟に達する数年間というのも見事。春の出産時期、メスは生まれたこどもを抱えてオスの周りをうろつき回る。乱交性のサル社会。

オスは全員身に覚えがあるような気になる。メスは群れオスに子どもを認知させ、いざとなった時、自分と子どもを守らせるのである。メスは群れオスとハナレザルとを巧みに使い分けるのである。ニホンザル社会の神秘である。 新しい相棒は以前から群れの周辺にいた「ホッケ」と名前をつけたハナレザルだった。オスの順位は年功序列でない。αメスの後押しで一気にかけあがる。その感触が人間風に言うところの「ある日突然」なのである。 

かくしてホッケはモミジの群れのαオスになった。はじめはあまり雰囲気を感じさせないサルだったが、しかしその後ホッケは変身し始め、立ち居振る舞いに風格がただよってきた。モミジの力、偉大なり。