牛ノ首物語8「牛ノ首岬・厳冬」

 
2008年1月18日、この日は寒かった。最低-4.9度、最高-3.4度。暦の上でも3日後が大寒。前夜、牛ノ首岬の東側にあるスギ林に泊ったサルたちは、朝9時を過ぎても全員ピクリともしなかった。寒さはてきめんに行動に現れる。誰も寒いのに早々と起きたくない。北限のサルといえども寒さは苦手なのだ。林内でウロウロしていたら頭上で「ヒュー、ウィッ」、「ホー、ウィッ」と鳴き交わしがはじまった。1頭のサルが頂上からスルスルと滑り降り、それを合図に他のサルたちも続く。ちょうど緊急招集をかけられた消防士のよう。さっきの静寂が嘘のようだ。

地面に下りたサルたちは広葉樹のある頂上を目指して歩き始める。時計を見ると10時を回っている。寒い一日のはじまりだ。サルたち雪だるまになりながら樹皮や冬芽をかじっている。細めの枝先には体の小さなアカンボウ、その背後の幹には母親が座る、さらに太めの幹には体重のあるオスザル。体のバランスの良いワカモノはその中間を移動しながら採食。体重別食事場所指定といったところ。良く出来ている。ただ全員、風上を背にして寒さを凌いでいる。しかし群れにはかなりのサルがいる。全員が樹に登れない。足跡を辿るとササ原に入っている。「ピュー」「スポン」と聞こえるのはササの新芽を抜いた音。「バシャ」「ブシャ」というはササの葉を食いちぎる音。いずれも採食の時の音。



冬のササ食いはけっこう重要。それでも数が足りない。はじめのスギ林に戻り、双眼鏡で丹念に木の上を捜索すると、惰眠をむさぼっているサルが何頭もいる。ざっとまとめると広葉樹採食組が30頭余、ササ喰い組が20頭余、30頭程が惰眠組。しかし惰眠組は睡眠というより餌場が空くのを待っているのである。ひとしきり採食が終わると移動する。広葉樹からササ食い。ササ食いから広葉樹。また時間を稼いでいた惰眠組も採食組に割り込んでくる。移動の際はみんな歩きやすいラッセル道を使うので、あちこちで渋滞して、ちょっとしたイザコザも起きる。しかしすぐ解決。

みんな目的の場所にたどり着いて空腹を満たす。このあたりで時計は2時を回っている。もうまもなく一日の終わりだ。結局、この日は牛ノ首岬に連泊した。冬の生活は動かず、腹を空かさず、ひらすらエネルギー消耗を防ぐエコ生活。大寒の前後は本当に「北限のサル」らしい風景が続く。温暖化といえどもこの時期は本当に寒い。強い寒気団が10日も居座れば生存さえ危ぶまれる。ぎりぎりで生きる方法は、惰眠や怠惰な生活。冬を生き抜く知恵は、やはり北限のサル独特のものだろう。