「牛ノ首物語・四方山話」

 
 2001年に牛ノ首物語を地元の新聞に掲載して10年が経過した。ここまで7回、合計70本のフォトストーリーを書いたことになる。我ながら少しだけ凄いなと思っている。牛ノ首岬は我家から徒歩で20分。いわば庭先。1987年に脇野沢村に移住してはじめてゆっくり歩いた場所でもある。下北半島の南西端に位置するこの岬は標高45mの25ヘクタールの小さな山塊。三重県では一般の写真、いわゆる町の写真スタジオに20年ほど勤務して人々のあらゆる場面の写真を撮り続けてきた。自然とは無縁だった。そんな人間がはじめて自然の中に身を置き、野生動物と正面きって対峙した場所が今の牛
ノ首岬だった。以来、24年間の大切なフィールドになり、貴重な定点観察の場所にもなっている。物語りの発端は単純。観察や撮影を重ねると記録が溜まってくる。当初は頭の中だけで整理されていたが、情報が多くなって、収集がつかなくなってきた。ニホンカモシカは毎年出産し、2~3年くらいのスパンで自立して他地域に移動してゆく。また、出産したものの間もなく死亡する子どもがいる。サルの場合でも出産、死亡があり、オスの場合は群れを離れてハナレザルとなり、αザルいわゆるボスザルは群れに加入してまた群れを出て行く・・。



群れるサル社会の変動も多い。記録が積み重なる一方で、膨大な資料となってきた。そこで一定期間のまとめをすることにした結果が牛ノ首物語りだった。また、地元新聞に掲載することで森の中で起きている事柄を社会に発信したいという思いも強かった。野生動物たちの動物側からみた生活事情というものが浮き彫りになればとも思った。自然の物事にドラマはない。彼らは自然の「森の中で」、自然に応じた生活を淡々と営んでいるだけ。ひとつの死は、また新たな生でもある。かれらの生活をゆっくり観察してみると、物事それぞれの背景がみえてくる。かれらの心の動きがみえる時がある。そんな時・・、心が動かされ、写真を撮ってきたのだろうと考えている。そして撮影した瞬間(とき)を写真に再現し、第三者に「思い」をメッセージとして伝えてきたわけだが、写真だけでは伝えきれないものがある。風の肌触り、森や潮のにおい、また季節のもつ色合いや温度感など・・。文字を補完することで写真が艶やかになる。文字を添付したフォトエッセーの魅力はここにあるのだろう。まもなく「牛ノ首物語8」を新聞掲載する予定になっている。還暦を過ぎ、あと何回書き続けられるのか、そんな思いも強くなってきたこの頃である。