「20年」

「ツツジ」と「スズラン」。(撮影:91年12月20日)
 
1991年、テレビの特別番組取材で一年間、ひとつの群れを追った。対象は当時の脇野沢村瀬野地区を生活域にしていた
A2-84群と呼ばれていた、24頭で構成された群れ。1頭ずつ、顔を識別したサル達だけが登場する自然番組だった。四季を軸とした取材日数は100日を超え、この年は明けても暮れても「サル」ばかりだった。

 当時のαメスは「ツツジ」。推定1970年生まれの彼女は20才を超えていたが、バリバリの現役だった。ツツジには頼りにしていた「ヤマツツジ」と名付けた娘がいたが97年に死亡。次女の「スズシロ」が強い相方になった。そのスズシロが撮影年の91年に「スズラン」を産み、番組の主役となっていった。同年、順位の低い「カキ」が「カキラン」を出産。順位の高いスズランとは対照的な存在となった。脇役として欠かせなかったのが老齢の「スグリ」と「フクジュソウ」。見た目からも年寄りといった印象だったが、群れの中では貴重な存在だった。スグリのアカンボは群れが衝突の際にはぐれて別の群れに入り込み、大晦日に死亡するという劇的な展開になった。性格が温和な両者は、敵をつくらず、誰にも優しく接していた。血縁が軸となって母系序列が出来るニホンザル社会では重要な役割を持つ、集団生活する霊長類には欠かせない存在だった。

 一方、オスたちはというとツツジの相方のαオス「シャチ」。

「ツツジ」(左)と「スズシロ」親子。(撮影:94年1月30日)

それぞれが存在感の強く、じつに息があっていた。群れのサル達も頼り切っていた。そして、後にシャチの後継となる「カナガシラ」が絡み、現場監督的な役目の「ゴンズイ」がトライアングルの構図で入り混ざり、群れは賑やかだった。他に、芋虫で一日中遊び回ったツツジの三女「イモムシ」(現在は「カエデ」と呼び換えて観察中))、すぐギャーギャー騒いで威嚇する「サンショウ」、コンビを組んでいた「ドクダミ」、大人しい「スズナ」、そして93年に誕生したツツジの最後の娘「モミジ」と続く。モミジはツツジの死後、後継となり新参オスの「ハモ」を相方に選び、現在の新しいオス「ホッケ」に相棒を替えている。ここまで一気に書き通せるのも顔を識別して覚え込む「個体識別」の成果とも言えるが、当時は毎夜何度も映像を見直して覚えるのに必死だった。

 2007年、A2-84群は分裂して現在3つの群れになり、生活域も変化している。カエデ、スズラン、カキラン、モミジ、ホッケ以外はすでにこの世に居ない。世代交代は世の常だろうが20年間という時間は、やはり長い。単純に「二昔」ともいえるが、寿命20年程の彼らの世界ではもっと長い道のりなのであろう。

 秋が訪れ、まもなく冬将軍がやってくる。森の中が何となく気ぜわしく思えるのは、樹木も、かれらも、それぞれ冬支度に余念がないのであろう。