牛ノ首物語7
「モンキードッグ」

モンキードッグの「ハナ」:(脇野沢田ノ頭)
 
 09年3月20日。牛ノ首岬を後にした群れは道路を渡って牧場に向かった。暖冬の影響からいち早く積雪が消えた牧草地は冬場の格好の餌場。尾根をふたつ越えると青々とした草地が目に前に広がる。サルたちは我先に駆け出し、あちこちに座り込んで、手と口を動かし始める。
 突然、大きな声が鳴り響いた。「ギャン」、「クゥワン」。激しい警戒音である。牧草地で採食していたサルたちが一斉に逃げた。茂みに駆けこむもの、木に登るもの、枝先で遊んでいたアカンボウたちも右往左往。パニック状態である。はじめ何が起こったのか分からなかったが、サルの周りを走り回るキツネを見つけ、ようやく原因が分かった。おそらくキツネをモンキードッグと見間違えたのだろう。キツネもサルたちに大騒ぎされて狼狽。意思疎通の出来ない物同士の不幸な出会いになった。08年8月、被害対策の一端として脇野沢地区に2頭の犬が導入された。畑地に近づくサルを山林に追い上げる特別な訓練を受けたモンキードッグである。導入後の半年間の被害は激減。群れの行動も山林部へ移行する兆しがみえている。犬猿の仲を利用した農作物被害軽減策である。

キツネに逃げ惑うサルたち:(脇野沢瀬野牧場)
 
 ニホンザルは相手を識別して敵味方を判断する。この地域で犬を飼っている家は多い。サルの接近を意識している番犬だが、じつは何度かサルと顔合わせをしているうちに馴染み関係になってしまう。さらに首ひもで繋がれていることがサルたちを安心させてしまい、身の危険を感じる相手とは見ないのである。犬猿の仲が「仲良し」関係になってしまう。下手をすると尻尾まで振る。モンキードッグはサルの匂いに反応して「追いかける」訓練を重ねた特殊犬である。さらに、現場では解き放って使うので、人間に危害を加えない、主人に絶対服従するようにしっかり躾けられたお金のかかった犬である。導入はまだ脇野沢地区だけだが被害防除効果が続くことを願うばかりである。下北半島ニホンザル第二次特定鳥獣保護管理計画は農作物被害防除として、人慣れ度の高い群れを選定し、個体数減少を考慮した個体数調整が導入された。初年度下北半島全体で270頭の捕獲計画。捕獲後の一部は動物園に引き取られたが大半は捕殺。第一次計画では「人家侵入」を繰り返す被害度の高い特定個体のみの捕獲。群れに捕獲枠が広がったことは残念。保護と被害のバランスはまだまだ不安定。天然記念物の文化財より迷惑なサルのレッテルを貼られて長い時間が経った。「人もサルも」の共生から「人かサルか」の住み分けに様変わりした。どちらにも言い分があるのだが、両者の溝は深まる一方。

第7部終わり