牛ノ首物語7
「群れの分裂」

分裂群を睨むモミジ
 
 2007年になると「モミジ」の群れの分裂は決定的になった。3年前からグループに別れて行動することが目立っていたものの、冬期には一緒になったりして、不安定な状
態が続いていた。それが年間通して別々に行動し、群れ同士の回避行動も強くなった。分裂はニホンザル社会ではよく起きる。きっかけになるのは群れの頭数で、下北半島
の場合、ボーダーラインは80頭。少し分裂を整理してみよう。01年にαメスだった長老「ツツジ」が死亡、末娘のモミジが後継。03年にαオス「シャチ」が姿を消し、年功序列的に当時ナンバー2だった「カナガシラ」が後継するかに見えた。しかし、この時点で群れの規模が100頭を越え、老メスのいる家系が主になる別グループを形成、分派行動を繰り返した。モミジ一派と老メスを主体とするグループに分かれた。この時、カナガシラはどっち付かずの行動を重ねた。両方の群れに出たり入ったりしたのだ。見方によってカナガシラはどちらにも気を使っていたのかも知れないが、メスたちからみると当てにならないカナガシラの存在感は薄れた。結局、70頭の群れはモミジと新参の「ハモ」、30頭の群れは老メス「サンショウ」の家族と「コフク」と名付けたオスが軸になる、ふたつの群れが誕生した。


背後を警戒するコフク
 
 2008年5月2日、牛ノ首岬を別々に通過した両群は道路を隔てた寄浪地区に移動し、大きな斜面でしばらく隣り合うように休息していた。沢に下ると好物のイタヤカエデやオヒョウが芽吹いている。この時期は頻繁に利用する餌場である。どちらもはやく餌場に行きたい、そんな思いが伝わってくる。事態が動いた。モミジが先頭、ハモが続く。またたく間に仲間のサルたちも一斉に動き始め、全員が急ぎ足から駆け足になった。遠くで悲鳴に近い鳴声が飛び交う。砂防ダムの辺りだ。走ろうとするが森を人間が走ることは不可能。森の住人にはなれない。ようやく群れに追いついた時、すでに攻防は終わっていた。追ったサルたちが沢に広がって戦利品を確かめるように新芽をむさぼっていた。追われたサルたちの姿はどこにもない。少し沢を上り詰めたら急斜面に座り込むコフクやサンショウの姿が見えた。ダムとの距離はせいぜい200m程度。全員がキョロキョロ周りに目を配り、落着かない様子。相当な勢いで追われたのだろう。分裂の現実を目の当たりにした。 この日はモミジの群れが別グループを一方的に追った。牛ノ首岬で一緒に生活していたサル同士が「追う」「追われる」関係になった。自然の摂理とは言うものの、複雑な思いが頭の中を駆け巡る。