「続・ヨノジ物語」・5

神社前のハッチとヨノジ
 
  2009年も昨年に続く暖冬であった。大寒を過ぎた2月中旬で積雪が消え、工事現場を歩く「ヨノジ」と「ハッチ」親子にも冬を越えた安堵の様子が伺える。6月15日。我家から愛宕山公園にいる「ハッチ」が見えた。遠目でも伸びた角が確認でき、1年間の成長の様子が伺える。「ヨノジ」の姿を確認しようとカメラを持ってでかけた。ツツジの隙間から「ナナ」が顔を出した。1才頃にできた左角のキズが目立ち、個体識別の特徴になってきたナナはカメラを構えても動かなかった。妹のハッチが背後にいる為なのだろう。海岸側に迂回し、ゆっくり神社に向かってのぼりはじめたら今度はヨノジが顔を出した。山頂にハッチ、下方両端にナナとヨノジが位置し、トライアングルのかたちになっている。円錐形した愛宕山の地形を巧みに利用したハッチを守る防御構図だった。
 しばらくするとヨノジがハッチに歩み寄り、鼻を近づける。ハッチも応える。この親子の仕草はいつも微笑ましいがなかなか写真が撮れない。少し離れた場所のナナは動かない。さしずめ現場監督というところか。この日はひとつの目的があった。ヨノジの出産確認である。カモシカは大体毎年出産する。


振り返るナナ
 
時期は5月中旬から6月にかけて。3カ年続いたヨノジの場合は06年5月22日(伐開地)、07年7月8日(愛宕山)、08年6月26日(愛宕山)に親子の観察をしている。生後1ヶ月程度で愛宕山の利用をしているわけで、死産も含めると出産確認は6月観察が軸になる。ヨノジはゆっくり歩道を登り、手すりに匂いつけをし、境内を通り抜けて海岸斜面の薮に姿を消した。今年の出産はないようだ。ハッチはしばらくこちらを見ていたが、ヨノジの後を追って薮に入っていった。ナナは一連の行動を下からじっと見ていた。私がナナの行く手を阻む格好になっていたので、移動して道を空けた。ようやくナナは歩き出し、ヨノジとハッチの後を追うように薮にはいった。幼いハッチを母親のヨノジと姉のナナが守る。この当たり前の行為が繰り返されている。
 そっと覗き込むとナナが振り返っていた。驚いた。鼻を突き出したナナは06年に再会したヨノジと同じ雰囲気がただよっていた。ひょっとするとヨノジの後継になるかも知れないと思った。ためらいなくシャッターを切った。ヨノジとその家族たちはじつに多くのカモシカ像を見せてくれた。愛宕山公園の事例は小さな出来事かも知れないが、この地の延長上に下北半島の山々があり、下北の自然があるのだと考えている。今年で22年を迎える愛宕山定点観察がいつまで続けられるのか分からないが、自然界のひとつの物差しとして記録できれば幸いである。終わり