「続・ヨノジ物語」・4

「ロクを追う六平」

 
 09年5月4日、旅人からカモシカ情報が届いた。「愛宕山公園でカモシカが追っかけっこをしていました」。昨年「ヨノジ」と新参カモシカの攻防もあったのですぐ出かけたが、公園は静まり返り、あとの祭りだった。しかし翌朝、玄関で旅人を送り出していたら庭の方からいきなり「ドドッ」「ドー」と音がした。私は振り向くと同時に身をそらした。黒い固まりが脇をかすめて走り抜けた。瞬間毛がかすったが、カモシカの顔はしっかり見た。右角が折れていた。玄関前には数名の人間が立ち並び、車も2台停めてあったが、そのわずかな隙間をカモシカが走り抜けたのである。何と言うことだと思ったが、そのあとは素早かった。サンダルを靴に履き替え、カメラを掴んで走り出た。「浜さ、行ったどー」「愛宕山だべ!」。釜で方向を示しながら、畑をやっていたお隣さんから声が飛んだ。そのあとはもう一目散。二頭のカモシカが走り回っていた。特徴を見極めようとするが、息が上がって双眼鏡もぶれぶれでまったく分からない。三周目あたりから速度が落ちた。追われているカモシカは若い。間隔の広い角輪が数本。3才前後と思われる。追っているのは右角折れのカモシカ。脇をかすめた奴だ。二頭とも舌をベロベロ出し、唾液をボタボタ落とし、疲労困ぱいもいいところ。カモシカは走ることが苦手な動物だが、どちらも非常事態なのだろう。よく走る。それにしても動き回るカモシカの識別が出来ないことがよく分かった。


「河川敷で採食する六平」

 
 撮影済みの写真をパソコンに取込んでようやく事態が分かった。追われたカモシカは06年生まれの「ロク」。左角がやや低め、額の文様、角輪の数が決め手。追ったカモシカは「六平」。昨年9月30日は正常な角だったので、右角を折った六平にはじめは戸惑ったが、鼻筋の文様と額の茶色が一致。父親が息子を追っていたのである。カモシカのナワバリ争いは同性間では激しい。ロクが3才のおとな年齢になり、六平にとって競合相手となったのだろう。ロクが1年未満の頃は度々、ヨノジ+ロク+六平という家族群の観察をしている。ロクにしてみればいつまで家族でいつから競合相手か、さぞかし戸惑ったことだろう。 5月7日、六平は新しい河川敷の斜面で採食していた。上部が橋に覆われて姿を隠せる橋脚下は絶好の餌場になった。採食後、斜面を駆けあがって道路を横断。畑地跡の草地から我家の庭を通り抜け、海岸道路を横断して海水浴場となっている瀬野海岸まで移動。あちこちの樹々に眼下腺から出る匂いつけをしながら愛宕山公園にはいった。ナワバリ争いは取りあえず六平に軍配が上がっているようだ。ロクの自立はこれから正念場を迎える。