「続・ヨノジ物語」・2

 
 2008年の愛宕山公園の桜は見事だった。年明け早々の朝、「パーン」「パーン」と公園から音がする。ウソという野鳥が桜の芽を食べに来るので連日、花火を打って追い払っているのである。桜は選定作業も重要だが、何より地域の人々の惜しまない努力によって満開を迎えることができる。
 「ヨノジ」と「ナナ」そして「ロク」の観察は続いていた。河川改修工事も終盤を迎えるなか、いわゆる私たちの死角を巧みに使いながら奥山との往来を繰り返していた。
 4月27日。「愛宕山公園でカモシカの写真が撮れました!」。早朝花見に出かけた旅人から情報が届いた。「えっ」、見せてもらったデジタル画像には角が異様なカモシカが写っていた。はじめて見るカモシカ。急いで出向くと、海岸斜面の岩の下に新参のカモシカがいた。体毛がとても白い。見た目には子どものように見えるが、角の太さと長さから2才以上の成獣である。さら左角が中程で折れ、前方に倒れている。ずいぶん特徴のあるカモシカだ。後ろ脚を上げた瞬間に股間を見た。性別はメス。こうなると同性のヨノジとナワバリ争いをする対象になる。カモシカの性別が重要なのはナワバリの習性が生活する場所を決定することになる。

 
 愛宕山に登る途中で「ヨノジ」に出会った。ヨノジはこちらを無視。興奮気味でいつもと違う。突然、薮に向かって走り出した。「ドドッ」、「ザザー」、「フシュッ、フシュッ」。静かな愛宕山公園が合戦場になった。音の頼りに薮に入ると新参のカモシカが採食している。ヨノジの動きから新参のカモシカが追われたと思っていたので、意外な展開。懸命にヨノジの姿を探す。山頂にある神社から辺り一面を見渡すと、道路を横断して公園を出るヨノジの姿があった。新参カモシカが残ってヨノジが去ったのである。ヨノジが負けたのか?
 その後しばらく観察が途絶えた。オスは高齢になるとナワバリを持たず、広い地域を放浪し、最期を迎えるカモシカがいる。ヨノジは推定15才。カモシカの平均寿命と言われる7.4才を越えている。2年続けて出産したとはいえ、そろそろかなと思う頃でもある。メスは子育ての為に安定したナワバリが不可欠だが、寄る年波には勝てないのか・・。いろいろ考えたが結論はでなかった。
 6月20日、ヨノジが可愛いこどもを連れて愛宕山公園の階段をのぼっていた。愛宕山攻防のヨノジは身重だったのだ。不思議なことに新参のカモシカはあれっきり姿をみせない。ヨノジは愛宕山公園を死守したのだ。さっそく子どもの名前を考えよう。