牛ノ首物語番外編「カモシカの調査」

 
 01年に牛ノ首岬で生まれた「グレー」は今春で9才になる。人間では30才前後になる。4才から4年連続で出産したが、04,05年の豪雪年はこどもが死亡。現在、06、07、08年生まれの3頭のこどもの母親。こどもは「アイボリー」「オリーブ」「ブルー」と名付けた。一般的にカモシカの調査は冬期に実施する。葉が落ちて、森の見通しが良く、さらに積雪によってカモシカを見つけ易くなるので、生息頭数を調べるのに最適。その際、春に誕生したこどもの数も調査する。双眼鏡とフィールドスコープを使えば、角の長さや体の大小によって判別がつき、おとなの数に対するこどもの割合である成幼比という数字も調べることが出来る。この数値はカモシカの個体数変動に大きく関わる。
 牛ノ首岬のカモシカ観察をはじめて20年を越える。はじめは撮影の為の生態調査が主だったが、94年から調査に切り替えた。カモシカを個体識別し、個々のナワバリを調べ、生存記録を積み重ね、交尾するつがい相手、出産の有無、こどもの死亡や移出を調べ、内容を密にした。牛ノ首岬は約25ha。全体を歩き回っても時間のかかる面積ではなく、のんびりと調査できる定点観察フィールドとしては最適であった。
 
  これまでに観察したカモシカは延べ17頭。調査当初からのカモシカは2頭、新たに入り込んだ個体は2頭、産まれた個体は13頭。09年春現在、牛ノ首岬には00年生まれのオス「ミドリ」、01年生まれのグレーとこども2頭、合計4頭が住んでいる。残りは移出6、死亡6、不明1という記録になっている。94年以降の平均生息頭数は4.3頭で、大きな変動はない。14年間の生息密度は0.2~0.12頭/ha、成幼比の平均は0.2になる。10頭のおとなカモシカに対してこども2頭という割合になる。こどもの扱いは生後1年未満として扱う。76年から脇野沢九艘泊地区で継続調査している下北半島ニホンカモシカ調査グループの報告によると76年~98年の生息密度は0.15~0.06頭/ha、成幼比の平均は0.12。牛ノ首岬の個体数密度は九艘泊地域の2倍近い。また成幼比も高く、牛ノ首岬の個体数変動がないことは、成幼比0.2という数字がカモシカの個体数維持のボーダーラインになるかも知れない。九艘泊地域の個体数は近年減少気味である。今回は硬い話しになったが、牛ノ首物語の背景にはこういった調査の裏打ちがある。スギ林の隙間からそっと覗くカモシカ、出会い頭に出会う親子等さまざまな出会いを繰り返してきたが、顔ぶれを入れ替えながら牛ノ首物語は続いて行く。