「ツール・ド・下北」

 
 今月は趣向を変えて自転車紀行です。コースは脇野沢から川内、そこから渓流に沿った佐井村との峠を目指すまさに「カモシカラインコース」。距離は脇野沢~川内が17km、川内~佐井村峠までが28kmを往復する合計90km。川内の市街地を越える新緑のかたまり。セキレイ橋や大滝を過ぎるあたりから新緑の鮮やかさは増す。満開のノリウツギのピンクが緑に映える。エゾハルゼミの合唱がBGMとなり、渓流の音と混ざって自然度は上昇。のぼりのかすかなペダルの重みも忘れる。湯の川温泉郷を過ぎたあたりからペダルが重くなり、ギヤーをこまめに変る。冬期閉鎖のゲート脇には「勾配10%」の標識。この数字は自転車には大きな壁である。喘ぎはじめる、ブーと自動車が追抜いて行く。何台も・・。ペダルを踏んでも歩く速度と変わらないのだが、意地があった。しかし半ば程走ったところで、とうとう降りた。歩くことがこんなに楽だとは思わなかった。カモシカ調査をする標高200mの定点場所を通過するあたりは勾配が緩やかになったの、再びペダリング。あと少しで峠。体が順応したせいか、少し余裕もでた。まわりはヒバが点在し、ブナも多くなってきた。
 カーブが多くなり峠が近いことが分かる。地形に沿って作られる道路は頂上が近ずくと体から伝わってくる。車で走っている時はこの感触はまったく出ない。汗がしたたりはじめた頃、佐井村の標識が見えた。この峠は10年前にサルの調査をやった頃、カンジキを履いて何度も通った場所。懐かしさも手伝い一気にかけ上がった。脇野沢から3時間。峠をぬける風のこの上なく心地いいものだった。

 
帰り始めた時、道路をエゾハルゼミが歩いていた。合唱隊に入れないのか、孤独が
好きなのか、あるいは鳴き疲れたのか手に取っても抵抗なし。傍らの木にそっと乗せてきた。一気に下り始めた頃、道路脇の薮からのそっと1頭のクマが道路に出た。距離は20m。急ブレーキをかけ後輪がスリップした。10m手前でようやく止まった。クマはこちらを見て、ぎょっとし、慌てて斜面を駆上がって姿を消した。その顔は「鳩が豆鉄砲を食らった顔」。一瞬の出来事で写真が撮れなかった。もっともこちらも余裕がなく、周りに子グマがいないか探すので手一杯だった。たぶん成獣のオスグマだったのだろう。後ろ髪を引かれながら気を取り直してまた下り始めた。10分ほど走ると今度はマムシがのんびりと道路を横断していた。
 峠の下りもあって川内市街地まで結局1時間で走破した。最高速度は40kmを越えていたと思う。峠の上りは辛いが下りは言葉に代え難い。これが気持ちよくて一生懸命に上りに汗をかく。この日の合計所要時間は6時間だった。かくして「ツール・ド・下北」の新緑カモシカラインコースは無事終了。孤独なエゾハルゼミ、クマの豆鉄砲、のんびりマムシ。背景を彩るのは新緑とノリウツギ、そして渓流の水音。自然大満喫のツーリングでした。
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