「むつ市のカモシカ」

 
 ニホンカモシカはウシ科に属する偶蹄目の草食動物。日本だけに生息する固有種で北海道、沖縄を除く本州、四国、九州の山地帯に暮らしている。一時、絶滅が危惧され、1955年に国の特別天然記念物に指定されている保護動物である。
 私が、現在のむつ市に合併された旧脇野沢村に移住した21年前は、村内の民家近くでカモシカの姿をちらほら見かけた。我家の周辺にも時々姿を見せ、現在でも同じ様な状況が続いている。5年前に合併された旧むつ市は、霊場「恐山」を抱えた釜臥山の山麓に広がっている街並で、市街地の周辺地域では古くからカモシカの姿が目撃されていた。しかし数年前から市街地の中心部に目撃情報が増え、道路横断、庭先を歩く、市役所の周辺を親子で散歩。民家脇の茂みに座り込む、橋を渡るなどさまざまな情報が寄せられている。目撃時間も早朝、夕刻だけでなく日中の目撃も多い。元来、カモシカは警戒心が強く、人前にめったと姿を現さない動物だとされていた。物音にも敏感で、僅かな気配だけで姿を隠すとされていたが、現在のむつ市外地に姿を見せるカモシカを見る限りイメージが違う。地域の住民もカモシカの姿にかなり馴染んでいる。
 
今冬、少し調査をしてみた。雪上に残る足跡を追跡する「アニマルトラック」の手法を使った。目撃情報が寄せられている場所に行くと、さっそく複数のカモシカの足跡が残っていた。よく見ると僅かに大小があり、親子がつかず離れずに歩いている姿が想像出来た。足跡は川の岸とお寺の墓所の周辺を蛇行しながら歩き、人通りの多い橋のたもとまで続き、Uターンして境内をかすめる様に戻っている。周辺にはイチイの牧垣が続き、ところどころつまみ食いしている。その後の足どりは、昔鉄道が走っていた土手を上り、反対側に降りる様に300mほど線路跡を移動。雑木林を抜け、自動車道路を横切り、込み入った民家の隙間を通り抜け、玄関から庭先をかすめて裏手の空
地を縦断。裏通りの小道を淡々と歩き、大通りに面した民家の玄関先に出たところで番犬に吠えられた。ちょうど玄関から出てきた女性に話を聞くと「カモシカは数年前から度々見かける様になった」、「2頭か3頭」、「人前でものんびり歩いている」、「犬はカモシカには吠えない」などなどリアルな情報。私はカモシカ以上に怪しげな「者」に見えたことになる。そして大通りに出たところで除雪されて雪が消えたところで足跡は途絶えた。調査を簡単にまとめるとカモシカはこどもを含んだ2~3頭。足どりは降雪の状況から2~3日間のものだと思われ、その間、山に戻らず市街地だけに滞在していた事になる。調査はまだ一部とはいえ、民家の隙間、空地、雑木林、スギ林、そして旧鉄道の跡地などを巧みに利用しながら生活するカモシカ像が浮かび上がった。
 旧むつ市の街並は自然の中に生活環境が組み込まれ、民家は密集しているが雑木林などさまざまな自然空間が点在し、自然豊かな街だと言える。人が住み易い街はカモシカにとっても「住み心地の良い」生活場所になるのかも知れない。