「早春に思うこと」

 
今年は暖冬。積雪も少なく、芝生に設置した積雪計の最深雪は21センチ。まともに雪かきをしたのも片手で数えられ、朝昼晩と日に3回やった年が懐かしくさえ思える。2月14日、雪が消えた牛ノ首農村公園の沢筋にフクジュソウが開花した。フキノトウは正月明けからすでにあちこち顔をのぞかせており、気温+10度も手伝って春間近を予感させた。しかし16日、気温が下がり、数センチの降雪があってフクジュソウは雪に埋もれてしまった。地球温暖化の一端とは言え、違和感のある冬だった。

2月9日、下北半島のニホンザル第2次特定鳥獣保護管理計画による捕獲がはじまった。4カ年計画の捕獲頭数は半島全体で270頭。5年前の第1次計画では人的被害を発生させる特定個体の捕獲に限定していたが、今回は農作物被害防除を目的とした群れに捕獲枠が広がった。群れを被害レベルで区分けし、一定の枠内でサルを捕獲、駆除することによって被害防除を図ることを目的とし、判定された群れ全体が害獣扱いになった。捕獲対象が広がった背景には個体数増加による生活域の拡大、群れの分裂による被害地域拡大といった負の連鎖が大きくなったこと。昨夏、むつ市脇野沢地域に導入したモンキードッグによる「追上げ」は一定の被害防除効果を出していたものの、対象も2群に限定され、決定的な成果にはつながっていない。

個体数調整はやむを得ない処置とはいえ、北限のサルは大きな曲がり角にさしかかった。1999年、私が所属する会が県の委託を受けて調査した時は18群718〜761頭で、第1次計画の基礎資料となり、2000年に保護と被害防除を摺り合わせた特定鳥獣保護管理計画が策定された。2008年、下北郡の市町村が実施した調査では44群1635頭+α。9年間で群れ数、個体数が2倍になり、この増加率が被害拡大につながると判定されたことが今回の捕獲拡大になっている。

話は戻るが、99年は「サルのすむ村」と題してサルと人の共生について新聞連載したことがある。屋根に上がってひなたぼっこをするサル。子供たちが遊んでいる背景にサルの姿。何本も軒先にぶら下がる棒ダラを踏みつけて歩くサル。魚には目もくれない。暖かそうなストーブの煙突を抱え込むコザル。漁具の上で毛づくろいする親子・・。挙げると枚挙にいとまがない。当時の風景には共生、共存という言葉さえも必要ないという思いがしていた。ある種、理想的な風景にさえ思えた。

 
過去に立ち返ってノスタルジックな気持ちに浸る気もないし、戻れるとも思わない。10年間何もしなかったわけではなく、「追上げ」「追い払い」「電気柵」など行政の力も借りながら出来うる限りの被害防除策を講じて来た。捕獲枠が拡大した現在も必要な措置をやっているという感もある。しかし、第2次計画になってから、保護管理計画の目標である

(1)
地域個体群としての永続的な保全、交雑の防止及び生息地の保全、(2)農作物被害の軽減及び人家侵入被害など生活被害の根絶、(3)共存のための社会合意形成という三本柱のうち、(1)の保護的見地が薄くなっており、保護管理のバランスを欠いた捕獲作業が進行している。生息地は、ゾーニング(サル生息地、警戒地域、防除地域)で区分され、地図上では担保されているが、サルなど草食動物にとって餌場となる落葉広葉樹林などの生活場所がどこまで保全されているかが問題になる。現在、生息地は国有林に重ねられ、面積的には広い。しかし大半がスギ造林地になっており、下草などの食料が生育しない場所となっている。むしろ、作業道である林道がバイパスになって山と里を行き来する頻度が上がり、山の餌から農作物に嗜好を変え、食性変化から生活スタイルを変えてくる原因ともなる。農作物被害発生を断ち切れない難しさはここにある。

 捕獲場所についてもこのゾーニングに関連させ、住宅地・農地である防除地域に限定している。捕獲段階で被害を発生させる因子を持った個体が特定出来、捕獲そのものを有効に機能させながら被害防除対策に徹底すべきであろう。ちなみに、警戒地域はサル生息地と防除地域の中間に位置する民有林を当て、人とサルとの緩衝地帯を目指している。中山間地域の多い下北半島では容易に確保できないが、共生、共存を目指すためには不可欠な地域になり、目標設定を大きく持つべきである。保護管理計画は「捕獲」を推進する為のものではないことを、常々、反すうするべきであろうと考える。

 捕獲されたサルの目はやはり物悲しい。彼の責任でも、誰の責任でもないのだろうが、何か他に方法がないものかいつも自問自答する。「失われた10年」という言葉が叫ばれて久しいが、彼らを見ているうち「戻れない10年」という言葉に上書きされる。時間は前にのみ進んで行くのだが、時々、目標に向かっているのだろうかと思うことがある。脇野沢のサルと人との歴史は45年になる。

 私たちの春は間違いなくやってくるだろう。それも今年ははやく。北限のサルたちの春はいつやってくるのだろうか。まだまだ異常気象が続くのだろうか。