北限に生きる〜モミジ物語〜5

「モミジの家族」

木のうえで傷跡をなめるモミジ
06年5月12日:脇野沢寄浪
 
眩しい新緑が落ちつき、本格的な春が山にやってきた。この時期サルたちは沢の周辺を生活の場として、渡り歩きながらいろいろな新芽を食べ歩く。とりわけイタヤカエデは好物で、あちこちに分散してやってきた春を謳歌する。久しぶりにモミジに出会った。ちょっと歩き方がおかしい。小さなアカンボウを抱えたような足取りだが、アカンボウはいない。よく見ると右手を直角に曲げ、さらに手首が曲がっている。左手で体を支えながら少しずつ歩いている。見るからにしんどそうだ。右手首に出血跡があり、骨折しているようにもみえる。背後から姉の「アジサイ」がやって来た。モミジは救いの目を向けるがアジサイは無視。関わりたくないという素振りでさっさと沢の奧に向かった。冷たいものである。近づこうとすると逃げるのでそれ以上の観察が出来ず、この日は後ろ髪を引かれる想いで山を下りた。翌日もモミジたちは同じ場所にいた。しかしこの日は用心棒が一緒だった。沢底で
観察していたら下流からハモが現れた。20m程の距離をおいて、こちらを向かって口を開けて軽い威嚇をしてきた。珍しいなと思っていたら、原因がわかった。後ろでモミジが木の陰に姿を隠すように座っていた。右手はまだ曲げたまま。状況解説をすると、ハモがモミジを護衛しながらやってきたら、通り道に私がいた。

こどもたちに囲まれるモミジ
06年5月22日、脇野沢寄浪
 
いつもは沢の斜面を登って迂回するのだが、背後にケガをしたモミジを従えている。ハモは威嚇せざるを得なかった。威嚇は通り道確保の要求である。状況を察して場所を空けるとハモはそそくさと目の前を通過。もちろんモミジはヨタヨタと追随した。そして傍らの木に左手だけで登り、手頃な窪地に座り込んだ。様子を眺めていた面目躍如のハモは、枝に腰を下ろして、安心したのかウトウトと居眠りをはじめた。ハモが手を貸すことはなかったが、見事な護衛だった。10日後、モミジのケガは完治していた。自然治癒力はすごいものである。涼しげなイタヤカエデの根元に陣取ってこどもから毛づくろいされていた。ハモは近くに座り込んでいたが威嚇はなかった。少し離れた場所にアジサイが昼寝。三女の「カエデ」も家族の毛づくろいに余念がない。その周りには群れのサルたちが散らばってそれぞれの春を満喫していた。モミジのこども時代はハラハラだった。集団生活のニホンザル社会とは反対とも思えるツツジの溺愛子育て。孤独から孤立。しかし結果は強い母親の後継となり、新しいオスを迎え入れ、家族をつくって姉たちともそれなりの融合。モミジの強さは、家族の力が備わり、群れの重要な力になってきた。モミジを通して北限に生きるサルたちのさまざまな知恵を見ることができた。終わり