北限に生きる〜モミジ物語〜3
「ツツジの後継」

ひなたぼっこする「ツツジ」と「シャチ」(右):撮影97年2月
 
2001年、「ツツジ」が死亡した。推定30才。人間年齢だと90才に相当する。群れについて行けなくなって一時的な保護をしたものの、依る年波には勝てずといった死亡であった。長い間の相棒だったボスザルの「シャチ」も徐々に元気がなくなりはじめた。柱を失った群れは微妙な変化をみせはじめた。目立った動きはツツジの次女の「アジサイ」。14才という年齢はこどもと孫をたくさん持ち、群れに顔馴染みも多い。ツツジがべったり張りついていた頃はモミジには手が出せなかったが、ツツジ亡き後、様子が変わってきた。立ち居振る舞いが堂々としてきた。「モミジ」は当時8才。2頭のこどもを持つが3才と2才。当てにできる年齢ではない。小さなこどもを抱えながら家族だけで生活していた。アジサイが近くに来るとモミジの方から毛づくろいをした。ツツジが背後から睨みを利かせていた頃では考えられないことだった。ニホンザルの生態における順位の後継は末子優先。母親が死亡した時点で直系の末娘が後を継ぐという定説。となるとモミジが該当する。が、モミジはツツジの尋常ではない過保護で育てられ、群れのルールである他のサルとの交流や、血縁のある姉たちとの連携を知らないまま大きくなった。人間風にいうと世間知らず。ところがアジサイは下積みも長く、群れザル交流や同年代との協力体制など条件は圧倒的に有利な立場だった。いかにサル学の定説といえどもモミジに軍配は上がらないだろうと考えていた。

新参の「ハモ」:撮影:03年11月
 
 決着はあっけないものだった。交尾時期最中のある秋の日、モミジがひとりで座っていた。30m離れてシャチ、そして30m離れてシャチに次ぐ群れ第二位のオスが座る。そしてさらに30m離れて新参のオスザル。不思議な組み合わせだったが、トライアングル構図に座るオス3頭の中心にモミジ。アジサイの姿はどこにもない。交尾時期のオスはまず順位の高いメスを相手に選ぶ。つがいの関係が成立するとメスの順位がそのまま自分の順位になる。求心力が低下しはじめたシャチはとくに必死だったのだろう。この日、重要なオス2頭と新参オスの3頭が同時にモミジを目指したのである。ツツジの後継はモミジと決まった。サルのことはやはりサルである。しかしこの日はおまけがついた。群れの方向から大きな声が聞こえた。シャチと第二位オスはためらいながらも声の方に走り去った。その瞬間、新参オスが反対方向に歩き出し、モミジはためらわずについて行った。モミジはひそかに新参を選んでいたのだ。シャチの選択は正解だったが、最後はモミジが仕切った。シャチが群れから姿を消したのは03年6月。新参オスには「ハモ」と名をつけた。