牛ノ首物語6「地球の物差し」
春の暖かな陽光で開花したカタクリ

 2006年は冬の季節感がないまま終わってしまった。とにかく雪が少なかった。降りはじめは前年の12月初旬、2日間で25センチの積雪になったが以後、まとまった降雪がなく、ホワイトクリスマスにならなかった。地肌が見えたまま正月を迎え、2月2日に27センチを記録したのが最深積雪。降雪量も277センチ、1984年から観測されている脇野沢地域の最小降雪となった。
暖冬小雪の影響は私たちの生活にも現れ、雪かきは片手で数える回数。灯油の消費も少なく、2ヶ年続いた豪雪から一息つける冬ともなった。ちなみに観測をはじめた1984年は豪雪で、最深積雪147センチ、降雪は939センチと記録されている。おりしもこの年はカモシカ調査で冬山歩きをしており、標高304mのガンケ山まで登れなかっ
た悔しい思い出がある。この年は雪解けとともにカモシカの死体があちこちに見つかったのも記憶に新しい。
 牛ノ首農村公園はむつ湾に面していることもあって春の到来が早い。例年、雪が消える3月前後に顔を出すフキノトウが、正月明けの4日に歩道の脇に姿を見せた。なかにはつぼみが終わって花が終わっていたのもある。気温の高い地球の鼓動をいちはやく感じ取ったのだろう。不思議な冬を複雑な想いで歩いていた。それでも中旬から冬らしい白い風景が少し続いたが、2月17日、雪が消えた。昨年の同じ日は積雪78センチ。あまりにも落差は大きい。3月2日、快晴の青空をハクチョウの北帰行が通過した。見事な編隊だった。足下ではすでに福寿草が満開になり、すでに春が到来していた。地球温暖化を実感せずにはいられなかった。
林内にひっそり咲くキクザキイチゲ

 興味深い話を思い出した。南極大陸で1年4ヶ月越冬を体験した友人が帰国後に熱っぽく語った。地球誕生46億年を1年としたら、原始の生物が生まれたのは3月27日、恐竜の活動が12月11日から26日頃。そして原人として人類が誕生したのは大晦日の午後9時前だそうである。さらに続ける。そんなミジンコにも満たないちっぽけな人間たちのわずかな活動が南極にまで影響を及ぼし、二酸化炭素の増加、オゾンホールは拡大、さらに雪原から放射能物質が検出されている、と結んだ。彼女の話を聞くと地球が身近になる。
 牛ノ首岬の観察は今年で20年目になる。北限のサルとカモシカの誕生や死亡に遭遇しながら、さまざまな出来事を記録してきたつもりだが、さきほどの地球時間に換算すると0.137秒。物差しがあまりにも違いすぎるが、むつ湾に目を向け、そのはるかな果てを眺めると南極は存在しているのだ。牛ノ首岬は25ヘクタール程の、地球規模では砂埃にもならないちっぽけなところ。しかしちっぽけな人間とちっぽけなサルやカモシカたちのサイズを考えると、けっこう良質な地球の物差しになっていると考えている。