牛ノ首物語8・「潮干狩り」

 牛ノ首農村公園の海岸は砂浜と磯が同居し、干潮の時は森と海が一体化した見事な風景を見せてくれる。沖合に浮かぶ鯛島が見方によっては少しクジラに思えるが、牛の首にあたる岬と見事な調和を見せ、脇野沢独特の景色になる。3月になると、時々暖かな風がむつ湾を超えて届くようになる。牛ノ首は春の先取りが出来ることころでもある。3月20日の最低気温はマイナスだったが昼間はプラス6度まで上がり、海岸は暖かな場所となった。前日からサルの群れが牛ノ首に滞在しており、昼前に出かけると、サルたちはむつ湾を見下ろす暖かな斜面で芽吹いたばかりの新芽を食べながら過ごしていた。よく見るとこざるの姿がない。観察出来るのは老齢や中堅クラスのサルばかり。しばらくすると下の方から甲高い声が聞こえた。
急斜面を下り、ブッシュの立ち木を利用して海岸に降りてみた。磯には十数頭のサルの姿があった。全員、1〜3才までのこども。サルたちは磯の岩を持ち上げたり、潮溜まりの周りを歩いたり、また波打ち際を歩きながら餌探しに余念がない。1頭のこざるがハングル文字の印刷されたプラスチック缶を抱えて、奪いにくる他のサルから逃げるように磯を走り回っていた。声の主はこのグループだったのだ。餌探しというよりレクレーション的な雰囲気が強い。採食は斜面の途中で済ませ、磯遊びが目的のようだが、見た目には潮干狩りの風情である。少し離れた岩場に2頭のサルが座り込んでいた。海藻を少しつまんで、匂いをかぎ、少し口に入れて、また新しい海藻をつまむ。

積極的には食べないその動作は緩慢で、のんびり食事もいいところ。小学校の給食指導中だったら先生に睨まれること間違いなし。腹は満たされているので、おやつ程度なのだろう。むしろ、暖かな日差しと頬をなでる心地よい風を楽しんでいる様子だ。長い冬を乗り越え、ひとときの春を楽しんでいるのだろう。斜面に戻ると採食していたおとなのサルたちは食後のグルーミングとうたた寝。海岸のこざるたちの姿は見えないのだが、ときおり聞こえる声から様子が分かるのだろう。親たちは安心しておとなの世界を楽しみ、ここでもひとときの春を満喫している様子。
牛ノ首は海と森そしてつなぎの部分にあたる磯と砂浜が存在し、多彩な生活を営むサルたちの絶好の生活の場となっている。それは食料提供だけでなく、集団生活におけるおとなとこどもの適当な距離が保てる空間も有している。つまり目は届かないが、
声が届いてこどもたちの様子が分かる安全な場所があり、それぞれの独立した世界が持てる場所である。さらに森と海を結びつけ有機的なエッセンスは濃厚そのものである。
牛ノ首に関わって20年になるが風景は当時のままである。こざるたちは磯で遊び回りながら無意識のうちに風景を伝承してゆくのであろう。