牛ノ首物語6「牛ノ首のクマタカ」

丸く残されたオオセグロカモメの綿毛

 猛禽類のなかでもイヌワシやクマタカはとくに人気がある。希少種ということもあるのだろうが、やはり精悍な顔つきと凛々しい姿が人気を集めるのだろう。また希少な種と強さの象徴にもなっている。むつ市脇野沢にイヌワシは棲息していない。もちろんオオタカやクマカタもそう簡単に見られるわけではないが、天気の良いとき時折、上空を飛んでいる姿をみることが出来る。ただ、ほとんどの場合が上空の小さな点である。
 2006年の秋、牛ノ首のスギ林に白い固まりがあった。はじめは雪かと思った。近づいてみると、楕円形に固まったものは無数の綿毛。明らかに鳥が食べられた跡だった。肉片はまったくなく、手がかりとして脚だけが1本残っていた。持ち主はオオセグロカモメ。犯行場所?はスギ林のなか。周りを見渡しながらさまざまな状況を推測してみた。その時、背後にゾクッとする気配を感じた。ふり返ったが何もない。しかし、何かに見られていることはわかった。ちょっと目を上げた瞬間、思わず声を出しかけた。
10mほどの古木に大きな鳥が留まっていた。大きい。迫力がある。本能的にカメラの入っているザックに手をかけた。ゆっくりジッパーを下げ、カメラに手がかかった。その瞬間、鳥はゆっくり羽根を広げた。羽ばたきもしないのに体が浮いた。そしてスギ林の間をぬって、上空に去った。その様子はスローモーションそのものだったが、思わず見とれてしまった。写真が撮れなかった。きれいな縞模様が翼と尾羽にあった。クマタカだった。
古木の脇に散乱したクマタカの羽根

 推測に拍車がかかった。クマタカがオオセグロカモメを捕まえてスギ林に持ち込んだ。成長したスギ林は適度な隙間があって、大きなクマタカでも飛び込める。上空か
らはスギの枝が重なって姿が見えないので、悠々と食事が出来る。ほとんど食べ終わる頃に邪魔がはいった。仕方がないので中断して古木に移ってやり過ごそうとした。ところが、邪魔者は食事場所に踏み込んだ。さらに自分を狙おうとした。写真を撮影する行為はハンターが獲物を狙う時と同じような殺気を発する。クマタカは残った獲
物を諦めざるを得なかった。ゾクッとした気配はクマタカの精一杯の威嚇だったのだろう。
 春が落ち着いた頃、クマタカが留まっていた古木の岩場に羽根が散乱していた。あちこちに点在していた。縞模様のある大きな羽根はクマタカ。ひょっとすると昨秋に睨まれた個体かも知れないと思った。クマタカはそう数多く存在するものでない。これも推測だが、いつものように獲物を食事中、キツネにでも襲われて捕食されてしまった可能性が高い。あるいは傷病で羽根を休めていたところを狙われたのかも知れない。食物連鎖と言ってしまえばそれまでだが、現実に近い風景を目の当たりにすると、あらためて自然界の凄まじさを思い知らされる。牛ノ首の風景はじつにさまざまなもの
を教えてくれる。