牛ノ首物語6「雪を泳ぐ」

大雪を単独でラッセルするハナレザル

 2006年12月4日は大雪になった。昨年一昨年と豪雪が続き、今年もまたかと考えさせられる降り方だった。積雪は一気に30センチ。ただ、気温は高めで、水分を含んだいわゆる濡れ雪。手のひらに舞い降りると瞬間に溶ける。
 この日、牛ノ首農村公園にサルたちがやってきた。誰も号令をかけるわけではないが、一列体制の見事な統率。春や秋はダラダラと各自勝手に歩いているが、深い積雪でみんな楽をしたいのだろう。先頭にいるのは「ハモ」。3年前からこの群れのα(アルファ)オス。昔の言葉でいうとボスザルだが、言葉から受ける印象が違いすぎるという
事から最近は呼び方が変わった。第一位オスとも言う。ただ、長く観察していると面白いもので、力量が認められてボスザルになるわけではない。メスの指名みたいなものがあって、ボスザルの行動には群れの重要なメスの意向が反映され、群れで一緒に行動するうちにボスらしくなってくる。立ち居振る舞いがそれなりになってくるので
ある。つまり、ボスザルは強いメスがバックについて、はじめてつくられるのである。
 新雪のラッセルは辛い。写真撮影等で斜面を登る時は一度膝を折って前の雪を潰し、次に体を前に傾けながら次の足を踏み出す。10分もやれば汗が噴き出す。さもないと上がって行かない。サルたちは両手が使えるので楽だろうと思うが、やはり大儀そうに歩く。途中で何度も休んでいる。メスは先頭を歩かない。観察していると面白い。


スギの中を移動するハモ(先頭)とメスたち

メスは動き出す前に周りをキョロキョロする。視線を察知したオスはさっと先陣を切る。新人のオスほどこの動きは素早い。かれらにとって、メスに頼られるポイントを稼ぐ絶好の機会になる。道が出来たところで、おもむろにメスが歩きはじめる。そしてこどもが続く。この呼吸は見事なもので、役割分担が永久的に守られる。オスの仕事とメスの役割をこども達は見て、そしてルールが刷り込まれながら大きく育ってゆくのである。メスはボスザルを育て、背中を見せながらこどもを育てる。どんなに時代が変わってもサル社会の教育論は普遍である。
 通りすぎた跡をみると、雪道のあちこちにかじった冬芽や樹皮、マツボックリや松葉、ササの切れ端、ドングリの殻などが落ち、冬の厳しい生活も伺える。スギ林を辿りながら少しでも積雪の少ない場所を選んでいる。先頭を歩くサルは地形や植生の把握など、生活の知恵が不可欠になる。このあたりを考えるとボスザルという表現でも
いいのかなと思う時がある。
 道路の反対側では新人のオスが派手にラッセルをしていた。まさに雪を泳いでいて、パフォーマンスとしては大変目立つ。しかし、ハモとは様相が違い、メスは誰も追随していない。新人オスは労働の割に成果が少ない。やはり新人は辛いものだ。そのうちサルたちはマツの枝に上がり、マツボックリを食べはじめた。みんなの顔にはようやくえさ場にたどり着いた安堵感が広がった。