牛ノ首物語6「ゴンズイの死」


ハナレザル当時のゴンズイ

2007年1月22日、「ゴンズイ」死亡の連絡が届いた。ゴンズイは01年3月、人家侵入を頻繁に繰り返し、捕獲された。そして、「お仕置き」を施されて奧山に放獣されたが、里に戻って再び人家侵入し、再捕獲されて野猿公苑に収容されていた。まるで何かの犯罪者扱いのような言い方になったが、知恵を持つ野生動物としてさまざまな事を考えさせられたオスザルだった。推定年齢23才。私たちの世界では70才前後になる。 1990年秋、牛ノ首ではじめて出会ったゴンズイはハナレザル特有の行動派であった。行動というのはメスに対するディスプレイだが、とにかく目を引くオスだった。ニホンザル社会では、オスは生まれた群れを離れて別の群れに加入する。その際にメスの気を惹いて自分の強さをアピールし、群れに加入する足場をつくるのである。
オスは数年で顔ぶれが入れ替わるが、乱婚性のサル社会において近親交配を防ぐ重要な意味がある。よく出来た仕組みだが、メスに取り入るためのオスの苦労は並大抵ではない。 何はともあれ、ゴンズイは群れに加入。移動の時は先頭を歩き、問題が起きれば真っ先に駆けつけ、頼りになるオスとして働き始めた。当時、群れにはいわゆるボスザルと呼ばれる力のあるサルもいたが、現場の取り締まりはいつもゴンズイ。まさに現場監督だった。


群れにいた頃のゴンズイ

 しかし、時間経過と共にメスたちが新しいオスに目が向くようになり、ゴンズイの存在感は色あせた。98年頃からゴンズイは群れから離れることが多くなり、そのうちハナレザル的な存在になった。おりしもその頃、サルによる人家侵入が目立ちはじめていた。初期は群れの行動と被害発生地域とが重なっていたが、そのうち九艘泊地区に集中するようになった。また同じサルの仕業だとする目撃情報も集まり、綿密な調査をしてみた。すると、ゴンズイが群れオスからハナレザルになった当時の動きが、被害発生地域の変化と一致。ゴンズイが人家侵入の確信犯だったことが判明した。
  ゴンズイのような事例が解明出来たのは珍しい。人家侵入という特殊な行為がオスザルの行動変化に絡んでいたわけで、貴重な記録とも言える。しかし、侵入される側は日々の不安が続き,ずいぶん迷惑をかけたゴンズイでもあった。一回目の捕獲後、お仕置きを施す段になって、「かわいそうダベ、そのまま放してやれ」、「もう、いいンでネガ」と声があがり、地域の人々の声に正直気持ちが和んだ。脇野沢の人々の心優しさを知った。だが、放獣後、地域に戻って再犯したゴンズイに野生のしたたかというより、心優しい人々につけ込んだ行動に腹立たしさも覚えた。野生動物の環境順応能力と言ってしまえばそれまでだが、ゴンズイは間違った方向に能力を伸ばしてしまった。 「こら、もう戻ってくるなよ!」。檻のゴンズイに声をかけたバサマの声がいまでも耳に残っている。