「ヨノジ物語・上 〜再会〜」


鼻面を突き出して見上げるヨノジ:撮影2006.1.1

 06年1月1日。穏やかな新年を迎えて私は、自宅の近くにある愛宕山公園に出向いた。大みそかの夜、ユースホステルでもある我が家に、二ホンカモシカの足跡があった。その持ち主を確かめるべく新年早々の観察に動き出した。積雪は50センチ。長靴から伝わる雪の感触が心地よく、新年の気持にふさわしいものだった。
 愛宕山のカモシカは03年から04年かけて登場した「ジュウゾウ」という若い個体を最後に、しばらく姿が途絶えていた。その理由として、河川改修にからむ公園前の県道取り替え工事がこの時期に始まったことに伴い、工事関係車両や人の出入りの影響を受けて、愛宕山公園まで生活域を伸ばせなかったのだろうと考えている。
 標高41メートルの愛宕山の頂上にある愛宕山公園には、新しいカモシカの足跡が残っていた。初詣の一番乗りは他ならぬカモシカのようだった。その方向に目をやると、1頭のカモシカがこちらを見上げていた。角輪から相当な年齢。推定で8歳ぐらいになるジュウゾウではない。角輪とは角にできる木の年輪のようなもので、年をとると増える。カモシカの大まかな年齢が分かる。
 神社近くで見つけたのは独特な雰囲気を持つカモシカだ。それに、やけに落ちついている。そのうち妙な気分になってきた。初対面ではない気がする。識別を考慮してさまざまな角度から写真を撮影して、急いで自宅に戻った。

ハチノジ(手前)と出会った当時のヨノジ:撮影1996.3.24

 パソコンから写真を取り出そうと、正月早々から懸命に作業した。正月の初仕事は何と、素晴らしいお年玉に変わった。丸い右耳、鼻筋の白いライン、そして何より鼻を突き出すクセ。愛宕山のカモシカは「ヨノジ」だったのだ。ヨノジは94年に初めて愛宕山で観察し、96年にハチノジとつがい関係を持ってこどもを出産。そして97年1月、我が家の玄関訪問を最後に、以来姿を見せていなかった。
 9年ぶりの再会になる。すでに死亡したと私は思っていた。ヨノジは当時の角の輪推定で90年ごろの生まれと記録していたので、今春で16才。寿命20歳前後のカモシカとしては高齢に属する。
 「ヨノジ」は、94年の出会いを忘れない為に「四の字」からあてた。夢にも考えていなかった再びの出会いになった。ハチノジにはじまった「愛宕山カモシカ」の歴史に新たなページが加わることになった。

続く