牛ノ首物語・・・
「新参のハモ」

岩の上に立つグレー親子
アカンボウを抱えるモミジ:撮影2005年5月22日

「ハモ」が姿を見せたのは、2001年の秋。とにかく体格のいいサルで、いわば体育会系。北限のサルは面長な顔立ちが多いが、ハモはなかでもひときわ目立つ存在。個体識別ははじめから容易だった。
 ハナレザルが交尾時期の秋に群れ周辺に姿を見せるのはニホンザルの特性。オスは大人年齢になると生まれた群れを出て、しばらく放浪して別の群れに入る場合が多い。なかにはハナレザルとして単独で生涯を過ごしサルもいる。ニホンザル社会はオスの移動で近親交配を回避させている。
 おりしもこの年は、メスのトップにいた「ツツジ」が死亡し、その地位を末娘の「モミジ」が継承した時期と重なった。オスザルは自らの力で群れの地位を築くのではなく、メスの力を利用して確立する。母系社会のニホンザルはメスが大きな影響力を持つ。それもメスの序列がそのままオスに転嫁する。つまりオスは交尾期に順位の高いメス、モミジの信頼を獲得すべき努力をするわけになる。しかし群れには古参のオスザルもおり、新参者のハモが簡単にモミジの「指名」を受けるほど甘くない。オスザルの秋の勢力争いは頭脳勝負になる。

群れの真ん中でクローバーを採食するハモ:撮影2006年2月22日

ある秋の日、モミジがポツンとしていた。珍しいなと思いながら周りをよく観察すると3頭のオスザルが座っている。顔ぶれは古参のオスザル2頭と新参のハモ。オスたちはトライアングルのように、モミジを取り囲むように一定の距離を保ち、モミジに熱い視線を送っていた。当のモミジは居眠りをしていたが、オスはみんな真剣。しかし誰もモミジに近づこうとしない。誰もがみんな牽制しあっている状態は明らかだった。
 古参のうち、若い方が動いた。若いと言ってもかなりの年齢でナンバー2。モミジに近づきながら目を合わせる。モミジは無視。目も開けない。仕方がないのでそのまま歩き続けて、少し離れた所に座った。次は古参。つまり当時のナンバー1、いわばボスザルが仕掛けた。さすがにモミジは無視できず、目を合わせた。が、そのままじっと見つめ続けるだけ。ボスザルはそのままモミジの脇を通過。座り込んで下草をむしり取った。目的が果たせず、転位行動をとったのだ。しかし、メスが単独で、ボスザルに目を合わせられて無表情でいられるのは凄いこと。あらためてモミジの強さを知った。
 その時、サルの喧嘩の声が林内に響いた。群れのサルたちのトラブルだ。古参オス2頭は反応し、声がした方に飛んでいった。その直後、ハモがモミジに近づき、口をパクパクした。モミジは口元を動かして反応、そのまま2頭並んで反対の方向に姿を消した。モミジはすでにハモを選んでいたのだ。タイミングを待っていたのだ。それにしてもじつに絶妙な手口だった。
 秋以降、モミジのそばにはハモが座っていることが多くなり、群れにおけるハモの地位は確実なものへとなっていった。