牛ノ首物語・・・「トドメキ親子」
 2005年の冬は、雪の降り始めがはやく、11月中旬から真っ白な世界が続いた。12月に入ると根雪になり、厳冬期の脇野沢の最深雪は1m近くになった。ところが2月中旬から温暖な気候が続き、雪解けがすすんで一気に50・まで下がった。昨年とは、降る時期、降り方もかなり違った。

 2004年12月14日、いつものように牛ノ首のカモシカ観察を終え、帰り道の途中、空き地にカモシカの親子を見つけた。積雪もない青々とした草地で仲良く採食をしている。しばらく見とれていたが、あまりにものどかないい風景だったので、カメラを取りだした。

 この場所は牛ノ首から、新井田という集落を挟んで200m程のところにあるトドメキ崎と呼ばれ、牛ノ首のこどものような存在。自動車道路で区切られた岬の面積は100m四方もなく、大半が急峻な斜面でむつ湾に落ち込み、杉林とわずかな雑木で成り立っている。時折サルたちも訪問するが、崖っぷちを好むカモシカにも最適な生活場所になっている。牛ノ首のような長期観察をしてはいないが、撮影した顔を確かめると1頭のメスが長くナワバリを持っていることがわかる。

 親子はクローバーを選んで食べている。わずかな空き地は身を隠すものは何もなく、危険回避が出来ない場所だが、親子は悠々としている。クローバーはまだ積雪のない時期の貴重な餌なのだろう。それでも、母親は食べながら、ゆっくり杉林の方に向かって移動する。一種の逃げの体制だが、それでも食べることを止めない。しかしこどもは母親の意識には無関心で、食べることだけに夢中。こどもはこの時期が大切な学習時期だと思うが・・、私は撮影しながら気が気でなかった。

 ようやく母親が意識を変えた。採食をやめて杉林に向かって歩きはじめた。が、こどもは気づかない。相変わらずクローバに夢中。母親は杉林に入る前に立ち止まってふり向き、そのままじっと待った。こどもはようやく母親の「異変」に気づき、母親の方向に歩きはじめた。そしてこちらをふり向いた。その口元にはクローバーがぶら下がり、まだ行きたくないという素振りに思えた。しかし、それを見た母親は歩を速めて、森に姿を消した。こどもは慌てて駆け込んでいった。動物界における母親の行動は絶対的なものだが、強制しない子育てというのか、見事な呼吸でこどもを教育するものだと感心した。

 この日は、牛ノ首でグレー親子とクロ親子、そしてミドリとブラックも観察。帰りがけにトドメキ崎の親子、全部で8頭のカモシカと出会ったことになる。二週間後、本格的な雪が降り始め、トドメキ崎のクローバーは雪に覆われた。

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