牛ノ首物語「・6
「クロとグレーの家族」
歩道に立つ生後3ヶ月のモスグリーン
・  撮影年月日:04年9月25日、牛ノ首地域
2005年の冬は豪雪だった。3月3日で我が家の積雪スケールは120センチを超え、私は脇野沢に住んで18年経過したが過去最高を記録した。
 雪深い冬は、野生動物とりわけ二ホンカモシカにとって大変な状況になる。サルたちは樹に登って木の皮や冬芽が充分食べられる。しかし足の短いカモシカはそうは行かない。間違って沢底にでも滑り込んだら、自力で這い上がれずそのまま凍死を迎える。
 2004年は14才になるメスの「クロ」と3才メスの「グレー」に新しい家族が誕生した。クロは4頭目のこどもで「シルバー」、03年に誕生した「ブラック」と合わせて3頭の家族。グレーは初めてのこどもになり、「モスグリーン」と名付けた。そしてオスカモシカの「ミドリ」を加えると、牛ノ首のカモシカは6頭もの豪華キャストになる。血縁はクロとグレーが親子なので、モスグリーンはクロの孫にあたり、孫の絡んだ親子カモシカの冬期観察をとても楽しみにしていた。
 ところが予定は未定で、この大雪。カンジキを付けても膝上まで潜り、移動だけでも容易ではなかった。また雪上の足跡すら見つからず、積雪の少ない海岸側の急斜面だけで生活しているのだろうと推測するしか手がなかった。
穏やかな初冬を過ごすシルバー(左)とクロ
 撮影年月日:04年12月14日、牛ノ首地域
 ようやく積雪が落ちついた3月、グレーに出会った。が、モスグリーンの姿は周りになく、グレーの素振りからもこどもの生存は期待できなかった。カモシカは1年以内のこどもは必ず近くに連れている。また少し離れていても、誰かが接近すると、視線をこどもの方向にやって存在を気にかける。慣れると、直接観察出来なくても、いわゆる「肌触り」で解るようになる。グレートとは2日続けて、同じ場所で出会って、同じ観察が続いた。またグレーのナワバリの中を歩き、小さな足跡を探し回ったが、これも皆無。おとなの足跡ばかりであった。さらに、クロ。ブラックとクロは観察出来たものの、シルバーの姿はおろか足跡すら見つからなかった。1年以内のカモシカは足跡の大きさだけで確認でき、母親の足跡周囲に必ず足跡が残り、生存が確認できる。クロとグレー、それぞれ単独の足跡だけが見つかり、05年の豪雪が新しい命をふたつとも呑み込んだと結論するしかなかった。昨年6頭の牛ノ首のカモシカは一挙に4頭に減少した。
 春の雪解け後、沢底からカモシカの死体がよく見つかる。沢の深い雪に足を取られ、脱出出来ずに凍死というケースだが、とくに豪雪の年は数が多い。まして体の小さなこどもはもっと不利になる。豪雪はまさに生存そのものとの格闘になるのだろう。ただ発見されるのはおとなのカモシカで、こどもの死骸が残ることは希。野生動物の死亡はキツネやイタチまたカラスなどの他の動物の餌になり、自然のサイクルに組み込まれて消滅する。小さなこどもは短時間で決着がつくので、ほとんど発見されない。
 カモシカはほぼ毎年出産がみられるが、今年のような記録的な豪雪など天災を加味して多めに繁殖しているのだろう。今冬の牛ノ首のカモシカたちは受難だったが、また春には新しい命を見せてくれるだろう。春は必ずやってくるのだ。
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