牛ノ首物語「・3
「カナガシラ・捕獲」
モミジからグルーミングを受けるカナガシラ
撮影年月日:05年1月6日
 2005年1月5日、今年はじめての観察は牛ノ首で「カナガシラ」との出会いで始まった。積雪は5センチ。駐車場周辺の芝生からはクローバーが顔を出し、サルたちは思い思いの場所に座り込み、ひたすら採食。穏やかな年明けを感じさせた。
 「おかしい、何か変だ」、サルたちの数が少ない。メンバーの顔を確かめてみた。「カワハギ」と「ハモ」、それにメス頭の「モミジ」をはじめ主流派のメスたちの姿がどこにもない。また分裂しているようだ。翌日、離れていたかれらも牛ノ首に姿をやってきた。顔を合わしたサルたちは何事もなかったように一緒になり、芝生に座り込んでクローバーをほじくり出すのに夢中になった。
 カナガシラはメス頭のモミジに執拗につきまとった。モミジは嫌がり、自分のコドモを盾にしながら逃げていたが、カナガシラは強引に割って入ってグルーミングを要求した。渋々手を動かすモミジはまったく義理的。1分も経たないうちにモミジは逃げ出した。新年早々カナガシラの群れの中の存在感の弱さが露呈した。1月15日から再び群れは別れてしまい、長期間の分裂の始まりを迎えることになる。
 1月17日、芋田地区に捕獲オリが設置された。人及び人家に被害をもたらす因子を持つサルの捕獲という条件を満たすために、人家周辺に捕獲オリを設置するのが基本条件になる。
 この日はすぐにメスが2頭入り、続いてカナガシラが入ってしまった。群れのサルたちも捕獲オリの周りに集まり、一時騒然となった。メスと重要オスは捕獲しないので、メスと一緒にカナガシラも開放。が、カナガシラは逃げるどころか、屋根に上がったまま捕獲オリから離れようとしなかった。
ボスザルになって1年経過したカナガシラ
撮影年月日:04年6月4日
 1月末から2月にかけてカナガシラは両方の群れの間を行き来するように浮遊した。この間も捕獲オリに何度も入り、関係者を悩まし続けた。2月中旬は悪天候が続き、両方の群れは北風を避けるように内陸部で一緒に過ごしていた。ハモが深い新雪をラッセルし、メスたちはその後を辿る。メスの動きにカワハギは敏感に反応し、すぐあとに続く。頼る頼られる関係がはっきり分かる。カナガシラも群れの中にいるが、これら一連の行動に無関心。メスたちも同様にカナガシラの動きは無視。この時期の観察でカナガシラのボスザルとしての足場崩壊は決定的になった。群れの重要オスではなく、人家周辺に寄りつく因子を持つサルとして考えざるを得なくなった。
 2月25日、蛸田地区の民家脇に捕獲オリが設置され、カナガシラは躊躇なく入った。今まではその度に扉は開けられた。が、この日は開くことがなかった。
 2月26日午後、蛸田を後にした群れは牛ノ首にやってきた。正月明けと違って積雪70センチ。好物のクローバーは雪の下、サルたちは雪上を黙々と移動。ハモが先頭を歩き、モミジとカワハギのあとをコドモたちが続き、30分で64頭のサルが通過していった。同じ日、もう一方の群れは2km離れた場所の深い沢に30頭程でまとまり、2頭の新しいオスが群れのなかに座っていた。
 ふたつの群れにカナガシラの存在は見事なまでに消えている。サルたちはカナガシラを忘れてしまったようだが、私のカナガシラとの15年は決して消えることはない。

続く

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