牛ノ首物語。・8
「ツツジの後継・モミジ」

 「モミジ」が生まれたのは1993年。はやいものでもう11歳。私たちに例えると女性の厄年年齢にあたる。
 ニホンザルは母系社会ということは広く知られており、メスの血縁関係が大きな役割を持っている。モミジの母親は「ツツジ」。群れのメス頭を長く続け、一時、こどもと孫をあわせると22頭もの家族を持っていた。当時の群れの頭数が60頭程だったので、いかに強力な主導権を保持していたかわかる。しかし、ツツジは2001年3月に死亡し、その後継者が注目されていた。
 オスは群れでどんな立場になるのか。いわゆるボスザルの存在は?という疑問が湧く。単純に答えるならばメスの用心棒。それも誰かの専従ということになる。群れには複数のメスがいる。メス同士には順位があって、一番高いメスの用心棒が結果的にボスザルということになる。モミジの群れではツツジがメス頭で、その相方が「シャチ」というオスだった。
 前置きが長くなったが、ツツジの死後、シャチが新しいメス頭を見つけてくれると考えた。メスとオスは「頼る、頼られる」関係なのだ。シャチにとっても頼るメスが大事なのだ。01年の秋の交尾期、ツツジがいなくなったシャチは、モミジと姉にあたる「スズシロ」と両天秤をかけた。モミジとスズシロの中間に居て、つねにどちらにも動ける体制をとっていた。この年は群れの中も不安定だった。

 翌02年の秋、シャチはモミジにつきっきりになった。ツツジという強力なバックアップをなくしたシャチは、一生懸命に状況判断をしていたのだろう。他のオスザルもモミジに接近する回数が増えた。03年は、申年の正月番組のために1年間の取材に付き合った。冬から綿密な観察をはじめたが、シャチとモミジの関係は昔のツツジのそれと同じような雰囲気が漂いはじめた。が、やはりシャチの依る年波の影響か、群れが広がって、輪郭が大きくなってきた。
 03年の6月はじめに10日間、群れが別れて行動した時があった。シャチとモミジと若いメスグループ。片方はスズシロをはじめとした中堅と老齢メスグループ。多くのオス達はシャチとモミジの側に居た。
 6月11日、牛ノ首で群れが合流していた。早朝、霧の中で観察した光景は印象的だった。ツツジがいつも座っていた岩の上にモミジが陣取り、周りに他のメスやこどもたちが群がっていた。一時力が拮抗していたスズシロは、群れの端の方に居る。他のサルやオスたちも全員揃っていたが、シャチの姿だけがなかった。
 その後、群れはひとつにまとまって申年を迎えた。ツツジの後継がモミジに決まったものの、長年αオスを務めていたシャチの姿がなくなったのは何とも皮肉なことである。シャチはその後も姿がなく、後継にはナンバー2だった「カナガシラ」が納まった。
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