サルの目カモシカの目:牛ノ首物語・6

「秋の風景」
 牛ノ首の山頂付近にカキノキがある。俗にいうところの柿の木。以前、畑があった場所なので植えられたものだと思うが、なぜか1本だけでぽつんと立っている。風景として不思議な感じがする。秋には実をつけて風景に彩りを添えるが、味は「渋柿」の域を出ない。何度か試したが、甘いと感じた年は一度もない。
 ある「山の実り」のいい年の事である。サルの群れが牛ノ首にやってきた。群れの数は全部で60頭を越えているが、赤く熟したガマズミの実をほおばる者、ヤマブドウを懸命に探し回る者、クリの木で場所争いをする若いサル、ひたすらドングリの実を拾い食いする年寄りザルなど、すぐ全員好き勝手な場所に散らばってバラバラ。いいかえれば、秋は山全体が食べ物になってしまうので、どこでも手当たり次第に食べられる。ところが、カキノキだけにはサルが登らない。
 私が知る限り、この年の柿の実は過去最大の数をぶら下げていた。いくら渋柿でも、あれだけ魅力的な化粧を施していれば、誘惑にかられてとりあえず触りに行く。サルは目で食べ物を探すので、あれだけ目立っていれば、少々目の悪いサルでも気がつくだろうがノ。サルたちの味覚は我々と違うので、我々が渋いと思っていても多少くらいはノ。また反面、かれらは旨い物から食べはじめ、それがなくなって旨くない物へ移行するので、芳醇な秋の実りがたっぷりあるときは好きな順番で食べるのかノ、などなど、さまざまな推量をめぐらせていた。
 と、気がつくと、1頭の若いサルがカキノキを登り始めた。小さい頃に「トンガリ」と呼んでいた4才になるオスだ。頭のてっぺんが尖って見えるのでトンガリ。単純な名前だがそんな事はどうでもよく、「やっと食べてくれるかな?」と私の気持ちはもう料理長。しかし、かれは柿の実を食べない。枝先につかまってクリを食べるサルたちをひたすら見つめるだけ。すぐ横にぶら下がっている「おいしそうな柿」に触るどころか見向きもしない。
 結局、この日は、ほとんどのサルたちがクリを目指し、その周りで順番があくまでの時間稼ぎの為に別の実を食べていた。つまりクリ以外は「つなぎの食べ物」だ。トンガリは1時間後に目指すクリを獲得できたが、その頃には誰もいなくなっていた。たわわに実った柿は、トンガリは触れもせず、もちろん誰からも「つなぎの食べ物」にもされず、そのまま残った。ひょっとしたらサルたちは、牛ノ首の秋の風景に配慮したのだろうか。

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