「未年の二ホンカモシカ」

 


 21世紀の幕開けが先頃だと思っていたら、すでに2003年。時の流れは、はやい。
今年は未年ということだが、偶蹄目の二ホンカモシカも羊の近縁種なの、少し過大解釈して、
私はカモシカ年という風にも考えている。
 常日頃、二ホンカモシカは特別天然記念物でありがらいつも日陰にいるような感じを持っ
ているので、こんな時ぐらい社会の表面に出ても許されるのではと考えている。人の気配が
すればさっと身を隠し、ちょっと大きい物音がすると、アッという間に姿を隠してしまう。
かれらは、つねに安全確保に細心の注意を払って今日まで生き残ってきた。生活スタイルも、
オスメスとも単独のナワバリを保持して孤独に生きるタイプで、集団で生活するニホンザル
とはあらゆる面で違う。
 近年、ニホンザルやカラスは環境の変化に順応して生活を変化させ、私たちの生活場所に
も入り込んでいる。かれらの環境変化に対する順応能力はきわめて高い。学習することで進化
する野性である。しかし、二ホンカモシカの場合は逆で、ほとんど進化しない野性だろう。
国の特別天然記念物という看板は「進化しない種」としてきわめて貴重なもので、まさに言い
得て妙なのかも知れない。
 この15年間、森の中で、さまざまな物語を垣間見てきた。生と死があり、離散があり集合
もあった。かれらの世界なりに歴史が積み重ねられてきた。下北半島の森の中にも携帯電話の
電波が届くようになった。しかし、孤独な森の住人、二ホンカモシカたちの静寂な時間の流
れは変わらず、淡々と新旧交代だけがくり返されている。12年後の未年は、何がどうなっ
ているのか、まるで分からない。

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