サルの目カモシカの目

牛ノ首物語・6

■ 「観察会」

 

 地元の小学校から自然観察会の依頼があった。部活動の一環として野生動物の

観察をしたいとのこと、相談の結果、牛ノ首でのカモシカウォッチングに決定。

 当日、防寒を兼ねた雨具に身を包み、靴はゴム長。首に双眼鏡、手にはメモ帳

の子供たちは完璧な調査員スタイル。「いのしし」、「さる」、「かもしか」隊

の3チームに分かれ、引率の先生を含めて総勢25名。

 出発前のレクチャーに十分時間をかけた。カモシカはナワバリ性の単独生活。

物音には非常に敏感、笑い声や笑顔も通じない臆病者。会話は静かに、動作は

ゆっくり、絶対走らない…。だんだん子供たちが緊張。それでも観察が始まると

、地面に残った足跡や枝を削り取った角研ぎの跡を見つけて一生懸命にメモ。

会話もひそひそ声でなかなかいい調子。

 ふと、気配を感じた。離れた木の陰から様子を伺っているカモシカがいた。

「カモシカだよ」、私は小声で後ろの子供に伝えた。途端に事前のレクチャー

は吹っ飛んだ。伝言するたびに声が大きくなる。ブレーキもきかず最後尾では

絶叫。「どこサ?、見えネー」、もう手遅れ。貴重なカモシカはあっという間

に藪の中に駆け込んでしまった。一瞬の悪夢。予想した悪いシナリオが頭をよぎった。

 しかし、それからが牛ノ首の真価発揮。その後次々とカモシカが現れ、オスが

2頭、帰りがけに「ムラサキ」親子まで登場し、当時住んでいた牛ノ首のカモシカ

を全部観察することが出来た。子供たちは双眼鏡を片時も離さず、角はどんな

かたち?、毛の色は?、何を食べている?、オスかメスか?、次々と質問が飛

び交い、記録に忙しい時間を過ごした。日頃、学校近くでカモシカを見慣れて

いるはずなのだが、観察中の、こどもたちの生き生きした目の輝きが印象に残った。  

 終了後、学校に戻り、子供たちがつくってくれたカレーライスをご馳走にな

った。感想を聞きながら、記念にと思い、観察したムラサキのアカンボウの名

前を募集した。多数決で「アカ」。理由を聞くと、ムラサキから「色」にこだ

わったとのこと。これには思わず納得。昔、私が、時間をかけて懸命に考えた

歴史人物の紫式部は、この日から一新。牛ノ首のカモシカの名前は「色」の

統一に変更した。

 

 

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いそやまたかゆき

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