サルの目カモシカの目

牛ノ首物語・3

■「ツツジ」と「シャチ」

 二週間に一度くらい、牛ノ首にサルの群がやってくる。群れには「ツツジ」という長老のメスがいた。

推定1970年生まれなので、当時20才。人間に例えると60才だが、そのツツジは今年3月、30才で他界した。

 ニホンザルは母系社会。ボスザルの話は有名だが、野生の群れにはボスはいない。自分の血縁を群れの

中にたくさん持つメスが、数に物を言わせて主導権を持ち、ツツジはその典型であった。そして、彼女が

一番頼りにしていたのが「シャチ」というオス。トラブルが発生すると、オスたちが駆けつけ事件処理

にあたり、その様をメスたちが見て信頼度をあげる。ツツジのような強いメスに頼られるオスが、いわゆる

ボスザルのような振る舞いをするのであるが、言葉のような存在ではない。

 ツツジの登場は無言だった。この日、サルたちは林道に出て、食べまくり、遊び回り、大いに実りの秋を

満喫していた。時に、私を興味深く眺めたり、ちょっと目をつり上げて威嚇したり、掴んでいるガマズミを

もてあそびながらにじゃれ合うサルたち、じつに多種多彩な姿を見せてくれる。

 急に静かになった。サルたちの動きも止まった。藪から、白い大きなサルが現れた。いままでの喧噪な

雰囲気は水を打ったように静まり、緊張感まで漂っている。そのサルは、食べるでもなく、餌を探している

でもなく、じっと中空を見つめている。私も無視されたままだ。乳首の感じからメスだと分かるが、雰囲気は

オス並み。背後から大きなサルが現れた。尾を上げ、背をそり返してオス特有のポーズを取っている。目は

鋭く動きも素早い。落ち着きがないと言えばいいのか。オスはよく大物気取りを決め込むが、ちょっと違う。

ますますサルたちの動きが止まり、まるで金縛りにあったようだ。

 後日になって、無言の白い奴がツツジ、大物気取りがシャチという両者が群れのリーダー的なサルだと判明。

やはり、実力をともなっていたのだ。のちに、私にサルの社会構造を教えてくれる貴重な存在になった。

 ツツジ亡きあとシャチは健在だが、いまでも印象に残る牛の首での出会いだった。 

いそやまたかゆき

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