北限に生きる・ツツジ物語

「避難」

2月15日夕方、芋田地域の住民から「小屋に様子のおかしなサルがいる」との連絡がはいった。

瞬間、胸騒ぎがした。予想はあたり、ツツジが民家の小屋の中で震えていた。周りは薄暗くなり、

群れの他のサルたちの姿はどこにもない。様子を聞くと前日から単独で周りをうろついていたらしい。

群れの移動について行けなかったのだと判断した。老齢に依る体力不足は否めず、仕方のないこ

とだが、人の小屋に逃げ込む手段をとったツツジの姿にかける言葉が見つからなかった。

 脇野沢村では、「北限のサル」の個体数保護のため、1964年から82年まで18年間餌付け

した時期がある。ツツジの履歴を重ねると12年間、人から餌を貰って生活していたことになる。

本来、群れについて行けなくなったサルは、そのまま山中のどこかで「のたれ死」するのが普通。

ツツジは、保護してくれるであろう「人」の世界に「避難」の道を選んだのだ。

 ツツジは駆けつけた私たちに哀願の目を向けている。指先には氷が付着し、体まで小刻みに震

わせている。小屋の中とはいえ寒いのだろう。民家に逃げ込んだままでは放置も出来ず、捕獲オリ

を準備して誘い込んだ。搬送用の車は暖房で車内が暖かく、指先の氷がみるみる解け、顔つきに

生気が戻った。3日間の栄養補給の結果、口を開いて「威嚇」するまでに元気を取り戻した。

 2月19日、ツツジの群れが見つかったので、群れに戻すことになった。オリに入れたまま

群れの近くまで運ぶと、1頭のオスが飛んできて我々に対して威嚇をはじめた。ツツジも反応

したので、オリをあけると、ツツジはいそいそと仲間に向かって歩きだした。お礼の一言もなか

ったが、ヨロヨロしながらも去ってゆくツツジの後ろ姿が、私たちには何よりのものだった。

 ところが、ほっとしたのもつかの間、4日後の23日、見送った場所から2キロほど離れた

地域の住民から、サルが家の周りを歩いているとの通報が届いた。急行すると、ツツジが玄関先で、

日向ぼっこさながら気持ちよさそうに座り込んでいた。言葉を失った。


つづく

いそやまたかゆき

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