北限に生きる・ツツジ物語。

はじめに

 今年の3月中旬「ツツジ」が他界しました。3月のトピックスでもストーリーを

お届けしましたが、やはり、という予想通りでした。97年、98年に地元新聞に連載

を書いていたのですが、今回が最終版になりました。21世紀まで寿命を延ばした

「ツツジ」の最後を、トピックスで3回に分けてお届けします。

 

「厳冬」

 ツツジとつきあって14年になる。彼女は30歳。人間の年齢では90才以上になる。

世界で最も北に生息するサルとして、1970年に国の天然記念物に指定された

「北限のサル」である。現在、下北半島には約20群が生息し、脇野沢村には5群。

ツツジは、その中で最も頭数の多い群れの最長老メスである。ニホンザルは20〜80頭

くらいで群れをつくる。オスはオトナになる4〜5才くらいで群れを出るが、メスは

生まれた群れの中だけで生活する。このあたりが母系社会といわれる由縁。ツツジは

、群れの中にこども、孫、ひ孫をあわせて20頭以上持ち、群れの行動に大きな影響を

与えるメス。外から入った、力の強いオスもツツジの認知なしでは動けない。

 今年の冬は、例年にない厳しい冬になった。2月11日、ツツジたちは、芋田地域の

沢の上流部で生活していた。ふもとでは地吹雪が続いていたが、かれらのいるところは

別世界。冷たい風は届かず、「ヒュー」という音だけが頭上を通り抜ける。しかし、

ザックの温度計はマイナス10度を示し、雪も深く、輪カンジキをつけても膝の上まで

もぐりこんでしまう。

 ツツジは、雪をかぶりながら、懸命に樹皮と冬芽をかじり続けていた。太くて堅い

部分は歯がたたないのだろう、重い体を持ち上げて、柔らかそうな枝先に手を伸ばすの

に苦労していた。抜け落ちた歯が痛々しい。ここ数年、冬のたびに、春を迎えられるかな?、

この写真が最後になるかも…、と自問し続けてきた。ツツジとの思い出は尽きない。

強烈な威嚇をされ、怖じ気づき、サルが怖くなった事もあった。こちらに非があった

のだが、本当にツツジが憎々しかった。交尾期、オスとの駆け引きに唖然とすることも

あったが、晩年産んだ自分のこどもを溺愛する姿には、まったく違うツツジの顔があり、

情けが移ったこともあった。脇野沢村に移住してからの14年は、ツツジとの14年でもあった。

 撮影を終えて帰路についたが、この日は、何度も後ろ髪を引かれる想いにかられた。

途中、ツツジの声を一度聴いたような気がしたが、すぐ、冬の風にさらわれてしまった。

つづく

文責 いそやまたかゆき


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