「ツツジ・厳冬」

今年は、暖冬予想が見事にひっくり返り、厳しい冬になった。あちこちで記録的な降雪が続いたが、

脇野沢村でも近年にない雪の量で、106センチまで記録した。また、気温の低い日も多く、

二桁のマイナス最低気温も珍しくなく、 一日中プラスにならない「真冬日」が連続2週間以上も続いた。

例年、ヒーターを巻いて保温している我が家の水道が何度も凍結。夜、水を抜いておいた湯沸かし器も、

朝、お湯をかけないと水が上がらない始末。村のあちこちで、トイレが凍り付いて破損、水道管の

破裂で水浸しといった事故も相次いだ。自然のエネルギーは凄い。

 さて、山のサル達はと言うと、やはり、苦労なんてものではないようだった。2月の連休に

山通いをした。

気温はマイナス10度。風雪が強く、まさに地吹雪、誰一人道を歩く姿はない。ところが、サルたちの

居る沢は、風がまったく入らない穏やかな冬であった。雪を頭からかぶりながら、もくもくと木の皮や

冬芽をかじり続、ときおり 、「ホウッ、クウッ」を鳴き声を交わす。まるで、点呼をしているようである。

しかし、よく見ると、指先が凍り付き、小刻みに震えている。採食の合間は、両手をすっかり抱え込んで

背を丸くして顔もあげない。オトナもコドモも、同じスタイルで餌を探している。

 推定31才の「ツツジ」は群の最長老のメス。私との付き合いも14年目にはいった。心なしか、

餌を食べる様子に元気さがなく、スローモーションのように動き、ゆっくり口を動かしていた。

場所はほとんど動かず、手の届く範囲だけを生活の場にしている。結局1時間、その場で食べ、

休み、ときおり空を見上げたり、その場をを動かなかった。雪は、容赦なく頭や背に降り積もり、

払いのける動作も少なかった。無理もないかも知れない。人間年齢に換算すると90才をこえるわけで、

私たちの世界ではすっかりご隠居さん。しかし、野生では誰一人手を差し伸べてくれず、

自分の食べ物は自分で探し、自分で獲得するしかない。ザックの温度計はマイナス10度に達し、

「やはり厳しいのだろうな」なんて心中で呟いた。

 いろいろなことを考えていたら、あたりが暗くなり始め、後ろ髪を引かれる想いで下山をはじめた。

途中、何度も振り返ったが、「ツツジ」はそのままの姿で目を閉じていた。

 いつもより、妙に、その姿が脳裏に焼きついている。

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文責 いそやまたかゆき

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2001/3/1

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