『秋便り』

秋の色付きが一段と深まり、北風が強くなってきました。山々の紅葉も、

気の早いところは落葉しはじめ、冬支度といったところが見受けられます。

さて、今月は話題がふたつ。ひとつは、7月末に発生した「サル山事件」

(8月トピックス)の、その後の様子です。8月にはいって、サル山から

3キロ離れた海岸側の国道付近で、こどもを背に乗せた親子のサルの

目撃情報が届き始めました。そして去る9月27日、運良く私も目撃する

事が出来、2時間ほど至近距離でで観察しました。私に対する親子の反応は、

とくに逃げる様子もなく、ときおり口をパクパクさせる飼育されていた様子を

裏付ける仕草をくり返し、事件後まもなく捕獲されたサルと同じ行動を

くり返しました。また、まわりには群れらしきサルの姿や気配は一切なく、

あきらかに親子だけの単独行動でした。観察後、目撃情報などの日時を、

教育委員会の巡回日誌で付近で行動している群れの位置を照らし合わせると、

つねに2キロ以上離れたところにおり、観察した親子が、サル山から逃走した

サルである可能性がきわめて高くなりました。10月にはいってからも親子の

目撃情報は続き、群れに属さず、親子だけで生活している様子が伺えます。

 

 もうひとつの話題です。3月のトピックスで紹介したニホンカモシカの

「クノジ」が、去る10月18日に死亡しました。教育委員会からカモシカが

死亡しているとの通報がありました。場所が近くの畑の中とのことで、

「ひょっとしたら…」と思いつつを駆けつけてみると、やはり「クノジ」が

横たわっていました。外傷はなく、苦しんだ様子もなく、状況から老衰と思われ、

天寿を全うしたようです。おりしも、3日前、我が家の玄関から芝生を横切り、

相いも変わらないノッソリした歩き方で姿を見せ、撮影しがてら、思わず

「老いたな…」と心の中で呟いた矢先のことでした。人に出会ってもあわてて

逃げる素振りもなく、また、人々も姿を見ても気に止める様子もなく、どっちも

「居て当たり前」という関係が成立していました。考えれば変な関係ですが、

両方とも自然の懐に抱かれて生活している、という共通点があります。

スピードアップした現代社会の中、「クノジ」と村人の様子は、時間が

止まっている様子にうつると思いますが、懐かしい風景でもあります。

 事件の影響を受けて単独で生活する「親子ザル」、老いて人里に安らぎの

場所を求めた「クノジ」、両者とも違った状況なのですが、それぞれが、

自然の懐に抱かれながら、無理をしない生活場所を確保しているようにも思えます。

生態的にはいびつなところもありますが、その歪んだものまでも、自然の力は

包み込んでしまうようです。じつは、私たちも自然に包容されているのですが、

ついつい、忘れがちになってしまいます。

 

文責 いそやまたかゆき 2000/11

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